[書誌情報] [全文PDF] (1811KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 90(5): 695-704, 1989


原著

慢性うっ血肝の体外循環
ー肝門脈血行動態の実験的研究ー

鹿児島大学 医学部第2外科(主任:平  明教授)

下川 新二

(1986年8月15日受付)

I.内容要旨
体外循環が慢性うっ血肝の肝内循環に及ぼす影響を実験的に検討する目的で,雑種成犬に三尖弁閉鎖不全による慢性うっ血肝を作製した.
正常犬(対照)及び慢性うっ血肝犬に90分間の常温稀釈完全体外循環を行い,門脈圧,門脈・下大静脈圧較差,肝静脈喫入圧,肝静脈模入・下大静脈圧較差,水素ガスクリアランス法による肝組織血流量を測定し,以下の結論を得た.
1)開腹時の肝組織血流量は正常犬62.7±23.3ml/min/100g,うっ血肝犬31.7±14.4ml/min/100gと,うっ血肝犬で有意(p<0.001)に減少していた.
2)体外循環中にうっ血肝犬の門脈圧,肝静脈喫入圧が上昇する割合は正常犬に比し軽度で,肝組織血流量も減少せず,うっ血肝の肝内循環は正常肝よりも体外循環の影響を受けにくかった.うっ血肝では肝を巡る血行動態の変動に対して敏感な適応がなく,一種の適応不全状態にあると推察された.
3)本実験の成績から,うっ血肝に対する開心術の適応を決定するには至らなかった.しかし,体外循環がうっ血肝に致命的な変化をもたらすものではなく,うっ血肝の病態を弁えた上でうっ血肝症例での開心術に取り組む必要がある.

キーワード
慢性うっ血肝, 肝組織血流量, 水素ガスクリアランス法, 体外循環, 肝内循環


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。