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日外会誌. 90(5): 686-694, 1989


原著

大腸癌リンパ節転移の治療と防止に関する術中補助化学療法の検討

国立仙台病院 外科(指導:名誉院長 菊地金男)

小島 誠一

(1988年6月27日受付)

I.内容要旨
大腸癌のリンパ節転移の治療と防止に最も効果的な術中補助化学療法を検討するために,高分子量制癌剤NCSを用い,73例を対象に結腸漿膜下,直腸粘膜下,腫瘍支配動脈内および末梢静脈内にNCS10,000U/mlを投与し,所属リンパ節,結腸断端部の組織内濃度並びに末梢静脈血中濃度を測定,組織内濃度の面からその有用性を検討した.
漿膜下投与により所属リンパ節内NCS濃度は,転移の有無にかかわらず4.5~6.0U/gの高い値を示し,投与から摘出までの時間と有意の相関がみられ,時間の経過が長い程高濃度であり,また投与前流出静脈を結紮して門脈系への流出を遮断しても,リンパ節内濃度に影響はなかった.結腸断端部濃度は,投与部位からの距離と有意の相関があり,10cm以内では3.04±2.62U/gの高値を示した.
NCSの腫瘍支配動脈内投与時の所属リンパ節内濃度は,第1群が5.75±3.54U/gで漿膜下投与時とほぼ同値の高濃度を示したが,第2群はその1/2にも達しなかった.しかしながら,腫瘍並びに結腸断端部の濃度は各々6.12,12.13U/gと極めて高い値を示した.
NCSの末梢静脈内投与時のリンパ節内濃度は,0.01~5.0U/gの広い範囲に分布し,半数は有効濃度以下であったが,結腸断端部,腫瘍部はそれぞれ8.0,7.31U/gの高値を示し,原発病巣に対する有用性が窮われた.またNCSに微粒子活性炭CH-40を加えて,直腸粘膜下層に投与した症例の所属リンパ節の濃度は1.7U/gを示し,水溶性NCS投与例と大差はなかった.しかし,CH-40がリンパ節内に取り込まれた黒染度は66.4%で,郭清の指標としては有用であった.
大腸癌に対するNCSの術中漿膜下大量投与法は,操作が簡易で副作用もなく,軽度のリンパ節転移や跳躍リンパ節転移の予防と治療,更に吻合部再発の防止に効果的であると考えられる.

キーワード
大腸癌, 術中補助化学療法, 制癌剤漿膜下投与法, ネオカルチノスタチン (NCS), 微粒子活性炭

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