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日外会誌. 90(5): 650-660, 1989


原著

ポリアミン代謝拮抗剤α-difluoromethylornithineを 用いたヒト固形癌に対する実験的化学療法
ー腫瘍組織内ポリアミン代謝の変動および mitomycin C との併用効果ー

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

梅本 俊治

(1988年6月20日受付)

I.内容要旨
細胞増殖に密接に関連するポリアミン(プトレシン[PUT],スペルミジン[SPD],スペルミン[SPM])の生合成経路では,オルニチン脱炭酸酵素(ODC)の介在するPUT合成が律速段階となっている.ODCの非可逆的阻害剤であるα-difluoromethyl-ornithine(DFMO)を用いてヌードマウス可移植性ヒト癌株MX-1(乳癌),Exp-42(大腸癌),Co-3(大腸癌)に対して実験的化学療法を行い,DFMOの抗癌剤としての有用性とポリアミン代謝との関連について検討した.
DFMO群は0.5,1.0,2.0%飲水連続投与の3群,mitomycin C(MMC)群は0.5,1.0,2.0mg/kg q7d×3ip投与の3群とし,併用群は1.0%DFMO+MMC 1.0mg/kg q7d×3ip投与とした.初回投与後21日間,体重・飲水量・推定腫瘍重量を観察し,屠殺後腫瘍重量および腫瘍組織量中ODC活性・ポリアミン値を測定した.
DFMO投与による体重・飲水量の著明な変化は認められなかった.DFMOの抗腫瘍効果(TRW/CRW最低値)はMX-1,Exp-42,Co-の順に高く,2.0%投与ではそれぞれ4.8%,35.8%,73.4%であった.またDFMO+MMC群ではさらに抗腫瘍効果は増強し,3腫瘍において相乗効果が得られた.腫瘍組織中ODC活性,PUT値,SPD値はDFMOの投与量増加につれて減少し,2.0%投与時のODC活性は対照群に比しMX-1 16.4%,Exp-42 14.8%,Co-3 4.2%となり,PUT値も同様にそれぞれ2.9%,6.6%,11.2%を示し,抗腫瘍効果の増強と共にODC活性,PUT値,SPD値は減少した.特にDFMO有効と判定されたMX-1,Exp-42ではDFMO総投与量,抗腫瘍効果,腫瘍組織中PUT値の3者間に有意の相関を認めた.
以上よりDFMOはODC,PUT,SPDを低下させることにより抗腫瘍効果を示し,またMMCとの併用で相乗効果を表し,化学療法剤として有用であると考えられた.

キーワード
α-difluoromethyl-ornithine, ポリアミン代謝拮抗剤, オルチニン脱炭酸酵素, 実験的化学療法, mitomycin C


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