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日外会誌. 90(4): 546-555, 1989


原著

イヌ初代培養肝細胞を利用したハイブリッド型人工肝臓の開発

北海道大学 医学部第1外科(指導:内野純一教授)

熊谷 文昭

(1988年4月27日受付)

I.内容要旨
イヌ初代培養肝細胞を利用した積層型人工肝を試作し,その機能評価を行った.基礎実験として,第1に,肝細胞の形態,機能を長期にわたって維持するための至適培地を検索した.その結果L-15にAprotinin 5.000U/L,Prolin 30mg/L,Insulin 10-8M,Dexamethasone 10-8M,Glucagon 10-8M,h-EGF 10ng/mlを添加した培地がもっとも優れていた.肝細胞はその条件下で少なくとも2週間は高レベルの機能を維持することが確認された.第2に,100%イヌ血漿による培養時の肝細胞の機能を検討した.その結果,生存細胞数,尿素合成能ともに合成培地に比し,血漿中のほうがむしろ好成績であった.第3に,培養担体の材質としてプラスチック類,ガラス類,セラミック類について検討した.各平板上で肝細胞培養を行ない,細胞の形態,尿素合成能,糖新生能,さらに細胞毒性,強度,コストなどを検索した結果,棚珪酸ガラスをもっとも適切なものとして選択した.
以上の結果より人工肝モジュールの設計を行った.モジュールは透明アクリル樹脂を使用し,厚さ0.4mmのガラス板ユニット200枚を積み重ねる構造とした.その結果総細胞培養面積4m2,総細胞数6×109個,総細胞重量70~80gとなった.
モジュールの機能は,合成培地灌流培養下で,糖新生能368±15.4mg/module/hr,アルブミン合成能19.1±2.5mg/module/day,尿素合成能3.7±0.1mg/moule/hrであった.
またイヌ血漿灌流培養下でのアンモニア代謝能は,負荷された1mMのアンモニア(1,400µg/dl)が90分後にはほぼ完全に消失したことより,8.4mg/module/hrとなった.灌流培養4日目の肝細胞は位相差顕微鏡下の観察で,そのほとんど全てが生存していた.
以上より,本人工肝モジュールは生体肝を一時的に代用できる高いレベルの肝機能を備えた画期的なものであることが明らかとなった.

キーワード
hybrid artificial liver, canine hepatocytes, primary monolayer culture, human epidermal growth factor (h-EGF), perfusion culture


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