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書誌情報]
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日外会誌. 90(4): 517-523, 1989
原著
メチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) による術後ブドウ球菌性腸炎の経験と MRSA の分離状況の検討
I.内容要旨過去1年間に,本邦では極めて報告例の少ない術後ブドウ球菌性腸炎を3例経験した.これら3症例は開腹手術後3~10病日に,下痢を伴う高度の脱水とイレウス症状で発症し,発症前全例にKanamycin,Clindamycin,Latamoxefが投与されていた.第1例では,発症後急激に全身状態が悪化したため,試験開腹術を行い,回腸痩を造設した.腸液より黄色ブドウ球菌が純培養として検出され,感受性抗生剤のMinocyclineを投与し救命し得た.他の2例では,発症時点あるいは増悪時点で抗生剤をMinocyclineに変更し軽快した.細菌学的検索の結果,これら3症例起炎菌は,メチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であることが判明した.
MRSAによる院内感染の存在が示唆されたため,過去1年間における外科病棟入院患者(消化器外科,小児外科,脳外科)の臨床分離黄色ブドウ球菌中のMRSAの割合,医療従事者,非感染症入院患者の鼻前庭におけるMRSA保菌状況,臨床分離および保菌者分離MRSAの薬剤感受性について検討した.臨床分離黄色ブドウ球菌中のMRSAの割合は3科全体では83%に達し,特に消化器外科では全株がMRSAであった.鼻前庭保菌者は,1987年6月の検索では,医療従事者46人中2人(4%),患者17人中4人(24%)であり,保菌者の存在が確認された.臨床分離MRSA 114株,保菌者分離MRSA10株,計124株の抗生剤10種に対する薬剤感受性は全株が同一の成績であり,Minocyclineにのみ感受性を示し,他の薬剤には耐性であった.
以上の結果から,自験3症例はMRSAによる院内感染症と考えられた.MRSA分離頻度の増加は全国的な傾向であり,今後本症も含め難治性感染症起炎菌としてさらに増加することが予想される.本症発症機序とその対策を中心に考察を行った.
キーワード
メチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌, ブドウ球菌性腸炎, 薬剤性腸炎, 院内感染症
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