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日外会誌. 90(4): 504-512, 1989


原著

胃全摘空腸間置術後の消化管運動
ー慢性犬を用いた実験的研究ー

新潟大学 医学部第1外科(主任:武藤輝一教授)

松尾 仁之

(1988年5月6日受付)

I.内容要旨
胃全摘術後の消化管運動を明らかにする目的で慢性胃全摘犬を作成し,消化管筋電図を用いた実験的研究を行った.雑種成犬3頭に胃全摘空腸間置術を施行,電極を間置空腸,十二指腸,遠位側空腸に2個ずつ,合計6個縫着,術後2週間以上経過の後,意識下に消化管筋電図を導出記録した.記録の条件は16時間以上絶食後の空腹期,および濃厚流動食200ml投与後の食後期とし,いずれも8~12時間連続記録を行い以下の成績を得た.
胃全摘空腸間置術後も空腹期消化管各部位にはmigrating myoelectric complex(MMC)が観察された.各腸管分節はそれぞれ独自のMMCを発生し,その初発部位は十二指腸(37.1%),間置空腸(33.0%),遠位側空腸(29.9%)とほぼ等しい発生頻度を示した.食餌を投与すると全腸管よりMMCは速やかに消失,各腸管にはirregular spike activityが連続し,胃全摘術後も食後期運動様式へと移行することが確認された.一方,本術式のMMCの伝播様式は多様であった.このなかで再建後の口側となる間置空腸にMMCが初発した場合,そのMMCの多くは間置空腸内にとどまり消失するか,もしくは十二指腸を跳躍し遠位側空腸へと伝播し,隣接する十二指腸へと伝播したものは極めて少数(3.8%)であった.さらに十二指腸にMMCが先行し,これに対応したMMCが間置空腸に遅れて出現する場合が13.5%に見られた.この際のMMCは十二指腸を通過してからより口側の間置空腸に出現したこととなる.すなわち間置空腸一十二指腸間には明らかな運動の解離が認められた.
以上より,胃全摘術後も小腸の基本的運動性は変化しないと考えられた.しかしながら,再建にあたり腸管を切離吻合や転位することで,空腹期MMCの伝播様式は大きく変化した.胃全摘空腸間置術後,間置空腸一十二指腸間には協調運動が認められず,このことが術後のもたれ感,胸やけなどの一因と考えられた.

キーワード
胃全摘術, 食道十二指腸間空腸間置術, 消化管筋電図, migrating myoelectric complex

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