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日外会誌. 90(2): 199-209, 1989


原著

開胸・肺手術操作の術中及び術後血液凝固線溶系に及ぼす影響についての研究

東邦大学 医学部胸部心臓血管外科(主任:小松 寿教授)

千保 純一郎

(1988年4月11日受付)

I.内容要旨
開胸・肺手術操作に際して,組織トロンボプラスチン及び組織プラスミノーゲンアクチベーターを多く含む臓器である肺に物理的操作を加えることが術中・術後の血液凝固線溶系にいかなる影響を及ぼすかを動物実験及び臨床例より検討した.
(1)動物実験:成犬20頭を2群に分けた.第1群(物理的操作群;N=10)には開胸直後から肺組織に連続的に物理的操作(肺をもむ)を加えた.第2群(非物理的操作群;N=10)には物理的操作を加えず換気のみを行った.各群について経時的に肺動脈,肺静脈,末梢静脈より採血し,ATIII,α2-PI,等の血液凝固線溶系因子を開胸後4時間まで測定した.
肺静脈血中の凝固抑制因子であるATIIIの値は物理的操作群において,術前値を100%とすると4時間後に79.8±8.5%と非物理的操作群に比して有意の低値を示し(p<0.05),物理的操作群における凝固系の亢進が認められた.一方,肺静脈血中の線溶抑制因子であるα2-PIの値は物理的操作群において術前値を100%とすると,4時間後には79.2±6.8%と非物理的操作群に比して有意に低値を示し(p<0.05),物理的操作群における線溶系の亢進も認められた.
(2)臨床研究:昭和61年1月から昭和62年6月までに当科で行った開胸,肺手術症例57例(悪性疾患32例,良性疾患25例)を対象とし,手術時間が180分以上の群(N=37)と180分以下の群(N=20)の2群に分けてプロテインC等の血液凝固線溶系因子を術前,術直後,第1,3,7病日に測定し術後の推移をみた.
凝固抑制因子であるプロテインCの術後の推移は手術時間が180分以上の群において,術前値を100%とすると第1病日には81.9±16.83%と最低値となり凝固が亢進していることが示唆されたが,その後上昇し第7病日には98.5±19.4%まで回復した.

キーワード
肺手術, 術中・術後血液凝固線溶系の変動, ATⅢ, α2-PI, プロテイン C


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