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日外会誌. 90(2): 181-186, 1989


原著

敗血症性多臓器不全の進展における循環動態と, ノルエピネフリン投与の影響について

群馬大学 医学部第2外科(主任:泉雄 勝教授)

安斉 徹男 , 吉田 一郎 , 金子 達夫 , 斉藤 清

(1988年2月25日受付)

I.内容要旨
敗血症における循環動態の特徴は,いわゆるhyperdynamic stateである.しかし,これも病態の進展に従い変化を来たし,ショック状態に陥り死亡する.これらの過程と,昇圧剤として用いたnorepinephrin(NEPI)の効果について,臨床的検討を行った.対象は主として消化管術後および制癌剤投与後に,敗血症性多臓器不全(s-MOF)を来しICUに収容され,敗血症性ショックで死亡した13名で,平均年齢56歳(30~74歳),ICUの平均滞在期間は21日(6~52日)であった.循環動態はICU入室時,重症感染期,末期に分けて比較した.NEPIは,通常のカテコラミンでは血圧維持が困難となったときに使用された.本剤投与の前後での循環動態の変化が,10人,12スポットで測定された.
1)循環動態の変動:ICU入室時では心係数(CI),心拍数(HR),平均肺動脈圧(mPAP)は高値を,平均動脈圧(mAP),体血管抵抗係数(SVRI)は低値を示した.重症感染期はICU入室時に比しSVRIが更に低下を示した.末期ではICU入室時に比し,CI,1回拍出係数(SI),mAP,SVRI,左室仕事係数(LVSWI)が,重症感染期に比しCI,SI,mAP,LVSWI,右室仕事係数(RVSWI)が有意に低下した.すなわち,ICU入室時には軽度の,重症感染期では典型的hyperdynamic stateを,末期ではCIは正常値となり,いわゆるnormodynamic shock stateに陥り,死に至ったといえる.
2)NEPI投与の影響:NEPI投与はCI,HR,RVSWIを有意に増加させたが,CIの増加はHRに依存していた.収縮期血圧は上昇傾向を示したが,mAPは変化を示さず,循環動態図の歪を修正することはなかった.しかしNEPIは一時的にせよ循環動態を改善しており,ことに血液ないし腹膜透析時の血圧維持に必要であった.症例と投与時期が適切であれば,s-MOF時の低血圧治療には有効な薬剤と評価された.

キーワード
敗血症性多臓器不全, 敗血症性ショック, 高心拍出状態, 常心拍出性ショック, ノルエピネフリン

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