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日外会誌. 89(12): 1969-1977, 1988


原著

先天性胆道拡張症の成因に関する臨床的,実験的研究
-特に胆管壁弾性線維と拡張形態との関連性について-

名古屋市立大学 医学部第1外科学教室(指導:由良二郎教授)

成田 洋 , 橋本 俊 , 神谷 保廣 , 村田 行孝 , 林 周作 , 鶴賀 信篤 , 由良 二郎

(昭和62年12月21日受付)

I.内容要旨
先天性胆道拡張症の病型の成立に,胆管壁内の弾性線維がいかなる関与をしているかを明らかにする目的で,先天性胆道拡張症,およびヒト剖検例を用いて,胆管壁の病理組織学的検索を系統的に行つた.更にはこれに羊を用いた先天性胆道拡張症のモデル作成実験を付加し,以下の結論を得た.
新生児期の正常ヒト胆管壁には弾性線維は存在せず,その出現をみるのは生後6ヵ月以降である.しかしその線維は極めて微細であり,胆管壁に明瞭な弾性線維を認める様になるのは1歳に到つてからである.よつて新生児期,乳児期の胆管壁は極めて脆弱で,この時期には胆道末端部の狭窄等による僅かな胆道内圧上昇によつても,容易に嚢胞状拡張をきたす可能性がある.
また先天性胆道拡張症例の拡張胆管壁と,これと年齢を同じくする正常ヒト胆管壁,更には各病型間同士で,弾性線維の発達程度,性状について比較検討したが,共に差異を認めなかつた.従って胆管拡張,およびその拡張形態に弾性線維自体の発達異常が直接関与している可能性は極めて少ないと推測された.
一方新生仔羊,幼若羊を用いた先天性胆道拡張症のモデル作成実験では,紡錘状の胆道拡張しか得られず,臨床例で観察されるところの嚢胞状拡張は作成出来なかつた.この理由の1つとして羊においては,新生仔羊といえども,ヒトの新生児胆管壁と異なり,そこに既に豊富な弾性線維が存在しているという事実が挙げられると考えられた.
以上より先天性胆道拡張症の病型の成立には,胆管壁内の弾性線維の発達程度,すなわち発症時期の年齢因子が多大なる影響を及ぼしているものと結論した.

キーワード
先天性胆道拡張症, 弾性線維, 膵胆管合流異常モデル, 年齢因子


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