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日外会誌. 89(10): 1699-1706, 1988


原著

完全大血管転位症に対する動脈側スイッチ手術後の大動脈基部形態の検討

兵庫県立尼崎病院 心臓センター外科部

菅原 英次 , 横田 祥夫 , 岡本 文雄 , 清田 芳春 , 中山 正吾 , 松野 修一 , 池田 義

(昭和62年10月21日受付)

I.内容要旨
完全大血管転位症(TGA)に対する動脈側スイッチ手術後の問題点として,大血管吻合部や冠動脈移植部の進行性狭窄,解剖学的肺動脈弁を機能的大動脈弁として用いるための術後大動脈弁閉鎖不全(AR)の発生などが挙げられている.今回われわれは,動脈側スイッチ手術の中で直接,大動脈基部に侵襲を加える解剖学的修復手術(Jatene手術)例と,侵襲を加えないDamus-Kaye-Stansel手術例で術後の大動脈基部形態とARの発生について比較検討を試みた.対象はLecompte変法Jatene手術後1~14カ月の9例およびDamus-Kaye-Stansel手術後43~60カ月の3例の計12例である.病型はI群TGAは5例で,うち4例に左室トレーニングの目的で肺動脈絞扼術が施行されていた.また, II群TGA6例, Taussig-Bing奇形1例であった.
術後の大動脈造影では, 1度以下の軽度ARを6例に認めたが,いずれもJatene手術後症例であり,軽度肺動脈弁狭窄合併例に交連切開術を加えた1例を除くと,肺動脈絞扼術施行例で高率(4例中3例)であった.一方, Valsalve洞に手術操作の加わらないDamus-Kaye-Stansel手術後,遠隔期にARを認めなかった.
ARの有無により, AR(+)群, AR(-)群に分け,術後左室造影側面像での大動脈基部径の計測を行い,それぞれ正常予測値に対する百分率で表した.また,対照群として軽症肺動脈弁狭窄症9例,機能性心雑音1例の計10例について同様の計測を行った.その結果AR(+)群ではAR(-)群に比べ大動脈基部径が大きい傾向を示し,遠位大動脈基部収縮期径では有意の拡大が認められ,大動脈基部の拡大がAR発生に関与していることが示唆された.
術後ARの発生を大動脈基部の形態から検討すると,大動脈基部の拡大およびバルサルバ洞への手術侵襲の有無が関係しており,肺動脈絞扼術の施行ならびに冠動脈移植手枝については,なお一層の検討が必要であるとの結論を得た.

キーワード
完全大血管転位症, Jatene 手術, Damus-Kaye-Stansel 手術, 大動脈弁閉鎖不全

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