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日外会誌. 89(10): 1655-1661, 1988


原著

肝切除後の蛋白合成能に及ぼす核酸成分輸液の効果に関する基礎的研究

高知医科大学 第2外科学教室

溝渕 俊二

(昭和62年11月28日受付)

I.内容要旨
手術・外傷などのストレス下では,内因性の核酸プールの減少及び,核酸合成系のうちsalvage経路の酵素活性が高まつていることに着目し,核酸成分輸液を作成した.本研究では, ヌクレオシドを主体とした総合的核酸成分輸液剤(OG-VI)を,肝切除ラットの高カロリー輸液に併用し, OG-VIの蛋白合成能に対する効果を検討した.蛋白合成能を評価するために,15N-glycineを用い, Picou&Taylor-Robertsの方法に準じて,肝切除直後のwhole body protein turnoverを測定した.
ブドウ糖を熱源として,総合アミノ酸製剤と電解質を配合した標準高カロリー輸液群(S-TPN群)を対照とし,それにOG-VI(13%v/v)を添加したTPN群を, OG-TPN群として比較検討を行い,以下の結果を得た.
1)窒素バランスは, 3日間を通してS-TPN群に比較してOG-TPN群が良好であり, 1日目, 3日目, 3日間の累積バランスでは有意差を認めた.
2)蛋白代謝回転速度は, OG-TPN群122.1±20.9mgN /kg/hr, S-TPN群97.4±10.lmgN /kg/hrとOG-TPN群が有意に高かつた(p<0.01).
3)蛋白合成速度もOG-TPN群59.9±17.5mgN /kg/hr, S-TPN群45.9±11.6mgN /kg/hrとOG-TPN群が有意に亢進していた(p<0.05).
4)蛋白崩壊速度もOG-TPN群がS-TPN群に比較して亢進していたが,その程度は顕著ではなかった.
以上の結果から, OG-TPN群では,蛋白代謝回転速度,合成速度,崩壊速度いずれもS-TPN群に比較して亢進していたが,蛋白合成速度の亢進が蛋白崩壊速度の亢進を上回つていたことから,窒素バランスにおいて, OG-TPN群で良好な結果が得られたものと考えられる.したがつて,肝切除直後からのヌクレオシド輸液は,肝再生におけるRNA,DNA合成に有効にサルベージ経路で利用され,その結果,蛋白代謝回転速度を高め,同時に蛋白合成速度も促進するものと考えられた.

キーワード
核酸成分輸液, whole body protein turnover, 〔15N〕glycine constant infusion法, 肝切除, TPN


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