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日外会誌. 89(10): 1616-1623, 1988


原著

犬前腸間膜動脈神経叢郭清後の空腸粘膜の超微形態学的変化

*) 名古屋大学 医学部第1外科
**) 名古屋大学 病理学第1教室 (主任:塩野谷恵彦教授)

水上 泰延*) , 浅井 淳平**)

(昭和62年10月12日受付)

I.内容要旨
リンパ節郭清とともに神経叢郭清を行う膵癌手術後には難治性の下痢や高度の栄養障害に悩まされる.実験的なリンパ管閉塞による小腸の超微形態学的変化については多くの報告をみるが,神経叢郭清後の変化については報告をみない.本研究ではその原因を明らかにするために,実験的に犬を用い,神経叢郭清およびリンパ管閉塞群の空腸粘膜の超微形態学的変化をリンパ管閉塞のみにより生じた変化と,経時的に比較検討した.
神経叢郭清群では,6時間後すでに粘膜上皮細胞間隙(intercellular space,ICS)の開大を認め,24時間後には,貧飲空胞の増加を認めた.5日目ではICSの著明な開大,糖衣の粗糙,微絨毛の配列の不整,貧飲空胞の融合体の出現,basal laminaの断裂,粘膜固有層の浮腫を認めたが,脂肪滴の貯留は認めなかつた.リンパ管閉塞群の5日目では上皮細胞内に多数の脂肪滴を認めたが,ICSの開大は軽度で,貧飲空胞の増加は認めなかつた.また,単純開腹群ではICSの開大,貧飲空胞の増加,脂肪滴の貯留を認めなかつた.以上の結果から,神経叢郭清群では早期から末梢血管の透過性亢進による粘膜固有層の浮腫やICSの開大によつて,貧欲空胞がICSへ転送されず,貧飲空胞の融合体が出現することが強く示唆された.リンパ管閉塞群と比べ,粘膜上皮細胞内に脂肪滴が認められないことより脂肪の吸収障害が明らかにされたが,貧飲空胞の増加,その融合体の出現,微絨毛の配列の不整および糖衣の粗糙化が認められることより,吸収上皮細胞自体の著明な吸収障害のあることが考えられた.
神経叢郭清後の空腸粘膜の超微形態学的検索により,吸収上皮細胞の吸収障害が下痢の発現と栄養障害の主要な原因の1つと考えられた.

キーワード
前腸間膜動脈神経叢郭清, 空腸粘膜, 超微形態学的変化, 下痢, 膵癌

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