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日外会誌. 89(8): 1279-1285, 1988


原著

後天性心臓弁膜症の手術成績と心筋保護法の工夫
―Terminal Blood Cardiolegia の施行―

佐賀医科大学 外科学講座胸部外科部門

夏秋 正文 , 伊藤 翼 , 樗木 等 , 桜井 淳一 , 湊 直樹 , 上野 哲哉

(昭和62年8月3日受付)

I.内容要旨
後天性心臓弁膜症の心筋保護法としてCold Blood Cardioplegia,Mild Hypothermic Terminal Blood Cardioplegiaを施行し,血清酵素及び心機能の面から成績を検討した.対象例は昭和59年5月以後の成人心臓弁膜症連続62例で,大動脈遮断時間は40~320平均105分であつた.術後血清酵素の測定は,CK-MB分画,LDH-1分画などを大動脈遮断中より遮断解除24時間目迄経時的測定を行つた.
術後の心機能は急性期2例のIntra-aortic Balloon Pumping施行例があったが,ICUでは全例心係数2.0L/min/m2以上を示した.血清酵素学的結果は,CK-MB値は3時間値(88.0±45.9IU/L,15.6±5.6%)ないし6時間値(88.6±46.71U/L,13.4±6.2%)にpeakがみられた.LDH-1分画値では,24時間値にpeakがみられた(374.1±118.31U/L,31.4±5.6%).CK-MB peak値及びLDH-1分画peak値の両者が異常高値を示す例はなかつた.CK-MB 3時間値が,絶対値150 IU/L,比率10%以上を示す例は7例にあつたが,このうち24時間値もなお比率10%以上を示す高値例は1例にあつた.この例はBentall ope+A-C Bypass手術例で,術後心筋シンチ上後側壁にperfusion defectがみとめられ,唯一perioperative myocardial infarction(PMI)診断された.PMI例を含み62例の術後心電図ではnew Q waveの出現は認めなかつた,手術成績は病院死亡62例中1例(死亡率1.5%)で,死因は術後紅皮症であつた,生存61例の術後心プール,心エコー,左室造影では,術前左室駆出率50%以下の14例のうち,術後遠隔期13例は50%以上に改善し,1例は不変であつた.術前50%以上の47例もすべて左室wall motionは良好であつた.NYHA IV度症例11例では,すべて術後自覚症状の改善が得られ,NYHA II度2例,I度9例であつた.本心筋保護法により重症例の長時間遮断例においても,遠隔期を含め良好な心機能が得られた.

キーワード
Blood Cardioplegia, Terminal Cardioplegia, CK-MB分画, LDH-1分画, Reperfusion Injury

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