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日外会誌. 89(8): 1167-1174, 1988


原著

胆道再建術後の病態
―胃酸分泌,糖質・脂質代謝および消化管ホルモン分泌の面から―

東北大学 医学部第1外科

今村 幹雄 , 佐々木 厳 , 舟山 裕士 , 神山 泰彦 , 佐藤 寿雄

(昭和62年7月6日受付)

I.内容要旨
良性疾患に対する胆道再建術,とくに空腸間置による胆管十二指腸吻合術(以下,空腸間置術)およびRoux-Yによる胆管空腸吻合術(以下,Roux-Y術)施行例につき,術前,術後および遠隔時の検査にて,胃酸分泌,消化性潰瘍発生,糖質および脂質代謝,さらに,これらと密接に関係する膵・消化管ホルモン分泌について検討した.
検査は,術前と術後約4週経過時に2種(高炭水化物食,高脂肪食)の食事負荷試験を,また,術前と遠隔時に上部消化管透視(または,内視鏡検査)と胃液検査を施行した.膵・消化管ホルモンは血漿ガストリン,インスリン,GIPおよびGLI値をRIA法にて測定した.
消化性潰瘍はRoux-Y術施行例において胃潰瘍を1例認めたに過ぎないが,Roux-Y術後では遠隔時に,術前に比し有意な最高酸分泌量の増加を示し,さらに,高酸例は空腸間置群に比し高率にみられた.食事負荷後の血漿ガストリンおよびtotal GLI値はRoux-Y群で空腸間置群および術前より高い傾向を示した.高炭水化物食負荷時において,Roux-Y術後にはインスリンおよびGIP分泌低下を介する糖質代謝異常がみられた.高脂肪食負荷時において,Roux-Y術後には脂肪の消化障害がみられ,また,インスリンおよびGIPの分泌低下を介する血中トリグリセライドの同化障害が示唆された.
以上より,Roux-Y術後においては,消化性潰瘍の発生は少ないが,胃酸分泌の亢進がみられることは考慮すべきと思われた.また,顕著な臨床症状としては出現しないまでも,Roux-Y術後には膵・消化管ホルモン分泌低下,混合ミセル形成障害,膵酵素の活性化障害等を介する糖質および脂質代謝障害が発生し,quality of lifeに影響する可能性が示唆された.胃酸分泌,糖質および脂質代謝に関する検討からは,胆道再建術としては空腸間置法はRoux-Y法より優れた術式であると考えられた.

キーワード
胆道再建術, 胃酸分泌, 糖質・脂質代謝, 膵・消化管ホルモン分泌

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