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日外会誌. 89(8): 1155-1166, 1988


原著

パルス磁界と抗癌剤との併用による抗癌効果増強の試みに関する実験的研究

旭川医科大学 第1外科教室 (主任:鮫島夏樹教授)

表 由晴

(昭和62年9月26日受付)

I.内容要旨
近年組織中に熱を発生しない程度の微弱なパルス状電磁界の生体影響に関する研究がなされている.著者は癌治療への応用を目的として,パルス磁界と抗癌剤との併用による癌治療効果に関する基礎的検討を行なつた.(材料)in vitro実験用として培養ヒト白血病細胞(Molt-4)を,in vivo実験用としてハムスター背部皮下移植化学発癌膵腫瘍をそれぞれ用いた.(方法)パルス磁界発生装置として直流電磁石にスイッチング回路を試作挿入したものを用いた.(1)in vitro実験として,白血病細飽の3H-Thymidine(3H-TdR)の取込み,抗癌剤3H-Methotrexate(3H-MTX)の取込み及びMTXの抗癌効果に及ぼすパルス磁界(周波数250Hz,パルス幅1.0msec,平均磁束密度40Gauss)の影響を調べた.(2)in vivo実験として膵腫瘍の14C-Thymidine(14C-TdR)の取込み及び抗癌剤Mitomycin C(MMC)の抗癌効果に及ぼすパルス磁界(200Hz,2.2msec,50Gauss)の影響を調べた.(結果)(1)in vitro実験:曝磁中3H-TdRの取込みが最大23%,3H-MTXの取込みが最大60%それぞれ増加した.またMTXの抗癌効果を癌細胞の3H-TdR及び3H-Uridineの取込みとViabilityにより調べた結果,パルス磁界併用による抗癌効果の増強を認めた.(2)in vivo実験:曝磁中14C-TdRの取込みが47%増加した.またMMCの抗癌効果に関し,パルス磁界併用により腫瘍組織の14C-TdRの取込みがMMC単独投与群に比し27%低下し,また腫瘍増殖曲線の有意の抑制と,病理組織学上癌組織のより高度の壊死像を認めた.(考察)生体組織中へのパルス磁界曝磁により渦電流が誘起される.この渦電流の刺激により細胞膜物質透過性が亢進し,抗癌剤の取込みが増加したと考えられた.また核酸前駆物質の取込み増加の結果から,休止期癌細胞が活動期(cell cycle)へ動員されたことが推測され,その結果抗癌剤に対する癌細胞の感受性が高まつたものと推論した.本実験結果により,パルス磁界の癌治療への応用の可能性が示唆された.

キーワード
パルス磁界, 抗癌剤, 細胞周期, 核酸前駆物質, 腫瘍増殖曲線

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