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日外会誌. 89(7): 1132-1136, 1988


症例報告

術後反回神経麻痺をきたした頸部神経鞘腫の1例ならびに嗄声に関するアンケートのまとめ

広島大学 原医研外科
*) 広島大学 医学部耳鼻咽喉科

新本 稔 , 児玉 久光 , 柳川 悦朗 , 服部 孝雄 , 夜陣 紘治*) , 原田 康夫*)

(昭和62年6月3日受付)

I.内容要旨
患者は54歳の男性で,約10年来右耳下腺部に腫瘤のあるのに気付いていたが,最近それが増大傾向にあるため,手術目的で入院した.腫瘤は3.0×2.5cm,境界明瞭,弾性硬,表面平滑であり,上下左右に可動性が良好であった.また超音波断層撮影では充実性の腫瘤影を呈していた.手術時,腫瘍は外頸静脈の後面,外頸動脈の前側方に存在し,上前方には顔面神経頸枝が認められた.外頸静脈を結紮切断し腫瘍を摘出したが,その時,内頸動・静脈および迷走神経は術中には確認しなかった.摘出標本は神経鞘腫であり悪性所見は認められなかった.術直後より嗄声があり,1カ月後に右声帯が正中位固定し反回神経麻痺と診断された.約1年後も,声帯は同様であり,萎縮も認められ嗄声は改善しなかった.頸部神経鞘腫の摘出による嗄声の出現については,若干の報告はあるものの,必ずしも外科医の一般的な知識とはなっていないのではないかという危惧をもったので,日本外科学会評議員にアンケート調査をお願いした.その結果,270名中180名(66.7%)の方々に回答をいただき,「知らなかった」との回答が67.2%であった.頸部の腫瘤には迷走神経由来の神経鞘腫が含まれることもありうるので,充分に慎重に手術する必要のあることを,外科医の一般的教育の中で徹底させることが必要であると考える.

キーワード
嗄声, 反回神経麻痺, 神経鞘腫

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