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日外会誌. 89(6): 863-870, 1988


原著

肝切除における肝静脈温存の意義に関する臨床ならびに実験的研究
―特に Segment VII+VIII 切除術について―

浜松医科大学 第2外科
1) 浜松医科大学 第2病理 (主任:阪口周吉教授)

北澤 正 , 中村 達 , 室 博之1)

(昭和62年7月13日受付)

I.内容要旨
過去8年間で6例に肝のSegment VII+VIII切除を行い,うち4例に右肝静脈本幹の切除を余儀なくされた.2例では超音波吸引装置を用いて右肝静脈を温存した.右肝静脈を切除した4例中,非硬変肝の例では一過性に肝酵素の上昇を見たにすぎないが,硬変肝の例では術後著しい肝機能低下を示し,回復が遅延した.右肝静脈を温存した2例では術後肝機能異常を認めなかつた.この臨床経験から,肝切除時に,温存すべき主ドレナージ静脈が結紮された残存肝領域の術後の肝機能および再生がどの様な経過を辿るかを実験的に検討した.ラットを用い,I群:40%肝切除施行.II群:I群肝に肝静脈結紮区域を作製した.その結果I群とII群の肝静脈非結紮区域は正常な再生過程を示したが,II群の肝静脈結紮区域は術直後から高度なうつ血と壊死に陥つた.S-GOT,S-GPTはII群で有意に上昇した.後に肝静脈側副血行の発達とともにDNA合成が徐々に活発化したが,そのピークは正常の肝再生過程より48時間遅れ,かつ低値であつた,術後7日目で全例に結紮・非結紮区域間に比較的大きな新生した肝静脈の交通枝を認め,組織学的には肝再生が完了したが,結紮区域の肝容積は明白に縮小していた.以上の所見から,肝切除時に主ドレナージ静脈が結紮された区域は,術後早期には機能を発揮できないことが判明した.従つて,特に硬変肝における肝切除では,この事実を念頭において切除範囲を決定すべきであり,また主ドレナージ静脈をできる限り温存する術式を選ぶべきである.

キーワード
肝静脈結紮, 肝内静脈側副血行, 肝切除, 肝再生

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