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日外会誌. 89(6): 852-862, 1988


原著

残胃リンパ流の臨床的,実験的研究

横浜市立大学 医学部第1外科

野口 芳一 , 今田 敏夫 , 安部 雅夫 , 田村 聡 , 山本 裕司 , 天野 富薫 , 松本 昭彦

(昭和62年6月24日受付)

I.内容要旨
残胃の癌および胃切除後の食道癌における妥当なリンパ節郭清範囲設定の一助とすることを目的とし,残胃の癌19例, 胃切除後の食道癌8例の臨床例を基に,残胃のリンパ流を実験的に検討し以下の結果を得た.なお実験対象として,雑種成犬25頭,家兎6頭を用い, リンパ流の測定は5-Fu emulsion内視鏡粘膜下注入法を用いた.
臨床例では,残胃の癌リンパ節転移は残胃周囲(No.1, 2, 3, 4)およびNo.10, 11で著明に高くこれらは更にNo.16, 111へもひろがつていた.胃切除後の食道癌の内, Eiに中心を有した3例は全例n2陽性例で,そのリンパ節転移は胸腔内と共に腹腔内(No.1, 2, 4)に及んでいた.
実験的には残胃からのリンパ流の全胃に比しての最大の差異は, 腹腔内から胸腔内に向かうascending flowであり, これは吻合法(Billroth I or II) にかかわらず,顕著に増加した.逆に,残胃状況下の下部食道から腹腔内へ向かうリンパ流は,胃切除によつても妨れられず, No.10, 11を中心に腹腔内にひろがつていた.家兎における噴門部リンパ節郭清modelでは,腹腔内から胸腔内に向かうascending flowが増加した.
以上の結果より,残胃の癌では胸腔内へ向かうルートの完全な遮断が,胃切除後の下部食道癌ではNo. 10, 11を含めた腹腔内リンパ節郭清の必要性が示唆された.

キーワード
残胃の癌, 残胃のリンパ流, 残胃の食道癌 , リンパ節郭清, 5-Fu emulsion


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