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日外会誌. 89(6): 834-842, 1988


原著

十二指腸潰瘍症例における迷走神経前幽門洞枝と胃底腺一幽門腺境界の関係

新潟大学 医学部外科学教室第1講座 (主任:武藤輝一教授)

薛 康弘

(昭和62年8月5日受付)

I.内容要旨
選択的近位迷走神経切離術(SPV)で温存される迷走神経前幽門洞枝と胃底腺一幽門腺境界(F線)の関係を,37例の十二指腸潰瘍症例の切除胃で検討した.術中に,前幽門洞枝の最も近位側の枝(近位側枝)および最も遠位側の枝(遠位側枝)の小弯に沿う幽門輪からの距離を測定した.ついで,切除標本を組織学的に検索し,胃底腺一幽門腺境界(F線)の位置を求め,F線の小弯に沿う幽門輪からの距離を計算した.さらに,F線より近位側を胃底腺領域(F領域), F線を含めF線より遠位側を幽門腺領域(P領域)として、近位側枝および遠位側枝の胃壁侵入位置での胃粘膜領域を求めた.
近位側枝の幽門輪からの距離は7.8+1.6cm,遠位側枝の幽門輪からの距離は5.1±1.2cmであつた.また,F線の幽門輪からの距離は6.7±1.4cmであつた.近位側枝の胃壁侵入位置での胃粘膜は,77%がF領域,23%がP領域,遠位側枝の胃壁侵入位置での胃粘膜は,14%がF領域,86%がP領域であつた.F線との位置関係からみた前幽門洞枝の分布は,近位側枝および遠位側枝がともにF領域に位置する“胃底腺分布型”,近位側枝はF領域,遠位側枝はP領域に位置する“通常分布型”,近位側枝および遠位側枝がともにP領域に位置する“幽門腺分布型”の3型に分類され,それぞれ,14%,63%,23%であつた.
胃底腺分布型は前幽門洞枝のすべてがF領域に位置していたことから解剖学的にSPVの適応とはならない症例と考えられた.また,幽門輪から一定距離の神経を温存するSPVの術式では, F領域への神経が残存する症例が少なからず存在し,その一部の症例では,除神経されずに残存するF領域が術後の潰瘍再発の一因となると考えられた.

キーワード
十二指腸潰瘍, 選択的近位迷走神経切離術, 迷走神経前幽門洞枝, 胃底腺一幽門腺境界


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