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日外会誌. 89(6): 815-821, 1988


原著

食道癌患者における術前栄養状態と術前後の心機能及び術後肺合併症

神戸大学 医学郎第2外科

良原 久雄

(昭和62年5月15日受付)

I.内容要旨
食道癌手術患者において術後の肺合併症を防止するためには術前の栄養管理の重要性が指摘されている.又術後肺合併症の原因としては心機能低下1)を重要視する報告もある.今回我々は術前栄養状態と心機能及び肺合併症発生との関係につき検討を加え興味ある知見を得たので報告する.対象は過去2年間に教室で胸部食道癌切除術を受けた35例で症例を術前1週間の摂取熱量が基礎消費熱量の1.75倍以下であつた群(第1群)と1.75倍以上群(第2群)に分けて検討した.その結果身体学的計測値では差はなかつたが,Rapid turnover protein は第2群の方が良好で第2群においては異化状態から同化状態への転換が達成されたものと思われた.手術前日にSwan-Ganzカテーテルを挿入し安静時及び25ワットの運動負荷後の循環諸量を計測し心予備能の比較を行なつたところ第1群に比して第2群の方が良好で,栄養状態の心機能への影響が示唆された.術後の血行動態の変動についても第1群に比して第2群の方が良好で第1群では血行動態が不安定でカテコラミンの投与を必要とする症例を多く認めた.術後の肺合併症を胸部単純写真にて肺に浸潤影を認めたものと定義すると第1群では8例(47%),第2群では3例(17%)と第1群で多くの発生を見た.さらに肺合併症を術後48時間以上の呼吸器による呼吸管理を要したものとすると第1群で6例(35%),第2群では1例(6%)とこれも第1群で多くの発生を見た.特に術後48時間以上の呼吸管理を要した7例中5例では術前の運動負荷により肺動脈喫入圧が10mmHg以上上昇し心機能が低下していた症例であつた.低栄養による心機能の低下が肺合併症の発生に有利に働くものと思われた.

キーワード
胸部食道癌, 術前栄養状態, 心機能, 術後肺合併症


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