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日外会誌. 89(5): 684-693, 1988


原著

制癌剤マイクロカプセルの基礎的研究
―その血管塞栓効果と徐放効果―

日本医科大学 第2外科学教室(主任:庄司 佑教授)

高橋 真佐司

(昭和62年6月13日受付)

I.内容要旨
Alginic acidを基剤として1-hexylcarbamoyl-5-fluorouracil(HCFU)を封入した新しい制癌剤マイクロカプセル(HCFUmc)を切除不能癌に対する化学塞栓療法の塞栓剤として作成し基礎的実験を行い,また癌性腹膜炎に対する制癌剤の新しい投与法のひとつとして,その臨床応用の可能性についても検討した.
1) HCFUmcは直径約400μmの均ーな大きさでほぼ球形を呈した.in vitroの溶出試験では120時間以上までHCFUの溶出がみられ徐放作用を認めた.
2)雑種成犬にmicrocapsuleを用いて観血的に肝動脈塞栓術を行い,固有肝動脈結紮群と血清GOT,GPT値により比較検討したが有意差は認められず良好な塞栓作用が認められた(n=6).
3) ascites sarcoma 180を腹腔内に移植したddYマウスを用いて抗腫瘍活性の評価を行ったが,HCFUmc (HCFU 5mg/kg含有)腹腔内投与群のT/C%は35.2%で, HCFUリピオドール溶解液(HCFULIP) (HCFU 5mg/kg含有)のT/C%62.0%と比較して有意に高い抗腫瘍効果を示した(n=6, p<0.05).
4)雑種成犬にHCFUmcおよびHCFULIPを用いて観血的に肝動脈内注入を行い,経時的に血中HCFU fraction, 5-FU濃度を測定し比較検討した. HCFUmc動注群のHCFU fraction濃度は24時間後まで有意に低値で(p<0.05, n=6), 48時間後のHCFU fraction, 5-FU濃度は有意に高かった(p<0.01).
5)癌性腹膜炎患者にHCFUmcを腹腔内投与し,血中および腹水中HCFU fraction,5-FU濃度を測定したが, いずれも48時間後まで著明な低下はみられなかった.
以上の結果より, HCFUmcは良好な徐放作用を有し, 化学塞栓物質として有用と考えられた.また,癌性腹膜炎に対する制癌剤の新しい投与法としても期待された.

キーワード
slow releasing anti-tumor agent, microcapsule, drug delivery system (DDS), HCFU, embolization


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