[書誌情報] [全文PDF] (4883KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 89(5): 671-683, 1988


原著

大腸癌における腫瘍関連抗原CEAとCA19-9の血中移行機序に関する臨床病理学的・免疫組織化学的研究

神戸大学 医学部第1外科
*) 神戸大学 医療技術短期大学部

出口 浩之 , 多淵 芳樹*) , 斎藤 洋一

(昭和62年5月30日受付)

I.内容要旨
大腸癌切除例108例の末梢静脈血と腫瘍還流静脈血を採取してCEAとCA19-9(CAと略)を測定し,これら腫瘍関連抗原の血中測定値と原発巣の臨床病理学的並びに免疫組織化学的所見との関連を検討し, CEAとCAの末梢血中移行機序の解明を試みた.
1) CEA(N = 108)の実測値(Mean±SE, ng/ml,以下省略)と5 以上の陽性率は末梢血16.3±5.2•31.5% ,還流血62.7±24.3•63.9 %であり,還流血は末梢血よりも実測値 (p<0.05) ・腸性率(p<0.001)ともに有意に高い値を示した.CA(N=44)の実測値(Mean±SE, U/ml, 以下省略)と37以上の腸性率は末梢血568.0±221.3• 29.5%,還流血576.1±221.4• 29.5%であり,両静脈間に差は認められなかった. 2) 免疫組織化学的染色では, CEAは全例に局在性が認められその分布はびまん性で静脈内に浸潤した癌細胞にも存在していた. CAは62.7%に局在性が確認されたが,その分布は散在性であり,静脈内に浸潤した癌細胞にはほとんど認められなかつた. 3) CEAとCA局在癌の血中腸性率と最も深い関連が認められた臨床病理学的因子はCEAでは静脈侵襲程度と侵襲位置であり, CAではリンパ管侵襲とリンパ節転移程度であった. 4) 肝転移19例中9例は末梢血CEAは陰性であったが還流血では1例を除き全例陽性でその実測値は273.6±159.3であった.CAでは肝転移10例中8例は陽性で末梢血と還流血のあいだに差はみられず,実測値はそれぞれ1,988.3±773.4• 1,923.3±777.7であった.
以上の成績より,CEAは主として静脈内に浸潤した癌細胞から還流静脈を介して経門脈経路で,CAは経リンパ行性の胸管経路で血中に移行していると考えられる.CEAとCAの壁深達度・stage分類・Dukes分類などの血中上昇関連因子はCEAでは静脈侵襲と,CAではリンパ管侵襲並びにリンパ節転移と関連することによつて二次的に血中上昇に関与しているものと推定される.この末梢血中移行機序ならびにCEAとCAの血中上昇関連因子の検討成績から,臨床的に血中特にCEAの還流血とCAの末梢血中定量は大腸癌の進展状態の差の推定以外に,肝やリンパ節などの臓器別再発危険例の予測に応用できる可能性があるものと推定される.

キーワード
大腸癌, carcinoembryonic antigen (CEA), carbohydrate antigen 19-9 (CA19-9), 還流血, 免疫組織化学

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。