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日外会誌. 89(4): 547-559, 1988


原著

大腸癌患者における血漿,赤血球および組織ポリアミン値と病理組織学的進行度分類との関連に関する研究

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

宮田 潤一

(昭和62年5月1日受付)

I.内容要旨
大腸癌患者の血漿,赤血球ならびに癌組織のpolyamine(putrescine,spermidine,spermine)を定量的に測定し,病理組織学的進行度分類と対比し,polyamineのtumor markerとしての意義とpolyamine代謝より腫瘍増殖能と病期との関連性を検討した.血液標本には,閉経前女性を除外した大腸癌患者47例と対照として正常健康人42例を,組織標本には,31例の癌腫と対照として癌腫より10cm離れた正常粘膜を用いた.組織は細切し0.1N塩酸を加え均質化した後,100%TCAにて除蛋白し,血液と同様にDurieらの方法にてpolyamineを測定した.癌患者群の血漿,赤血球polyamine値は,正常対照群に比し有意(p<0.01)に高値を示した.病期との関連では,DukesAにおける血漿spermine,赤血球spermidine,spermine値はそれぞれ0.023nmol/ml plasma,13.88,6.78nmol/ml erythrocytesであつたが,Dukes Dでは0.062,26.22,23.92と有意(p<0.01)に上昇し,病期の進行とともに増加した.また,血漿,赤血球spermidine/spermine比は,Dukes Aで各々10.07,2.17であつたがDukes Dでは3.12,1.21と有意(p<0.01)に低下し,病期が進むにつれて下降した.癌組織polyamine量は正常粘膜に比し,湿重量当たりでputrescine,spermidine,spermineともに有意(p<0.05)に高値を呈した.しかし,病期別癌組織polyamine量は血液polyamine値とは異なり,ほぼ一定で変化はなく,癌組織spermidine/spermine比もDukes A 0.922,B 1.014,C 0.942,D 0.893であり有意な変動は認められなかつた.以上より,大腸癌組織の各病期における増殖能,生合成能に明らかな増減はないが,病期が進み総腫瘍量が増大し転移巣よりのpylyamineの血液中への放出が加わり,それが血漿spermine,赤血球spermidine,spermine値の増加と血漿,赤血球spermidine/spermine比の低下を惹起していると考えられ,これらは大腸癌患者の病期分類に有益なmarkerになりうることが示唆された.

キーワード
大腸癌, 血漿ポリアミン, 赤血球ポリアミン, 組織ポリアミン, 大腸癌病理組織学的進行度分類

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