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日外会誌. 89(3): 336-344, 1988


原著

十二指腸潰瘍に対する選択的近位迷走神経切離術および広範囲胃切除術後における胃内胆汁逆流と胃粘膜内hexosamine濃度の変動に関する検討

東京大学 医学部第1外科 (指導:森岡恭彦教授)

横畠 徳行

(昭和62年4月13日受付)

I.内容要旨
胃手術後の胃内胆汁逆流は様々な胃粘膜障害をひきおこすと考えられている.著者は健常対照17例,十二指腸潰瘍術前43例,術後(選択的近位迷走神経切離術,以下選近迷切,および広範囲胃切除術,以下広範胃切)90例につき胃内胆汁逆流の状況を分析し,内視鏡所見と対比させ,同時に粘膜防御因子の変動を胃粘膜内hexosamine濃度の面から検討を行い以下の結果を得た.
1.胃内胆汁逆流は広範胃切Billroth II吻合(以下BII)例で最も高値を示し,健常対照例で低値を示した.また広範胃切例は選近迷切例より有意の高値を示した.
2.選近迷切例では幽門形成の有無に拘らず術後早期には胃内胆汁逆流は高値を示したが以後漸減し幽門形成付加例でも術後5年以降では術前値に近づいた.
3.内視鏡所見で発赤,出血斑,ビラン等の胃炎性変化の強い症例で胃内胆汁逆流は高値を示した.
4.幽門洞部粘膜内hexosamine濃度は胃内胆汁逆流の多い症例で低値を示し,胆汁逆流による粘膜防御因子の減弱化が示唆された.
5.胃体部粘膜hexosamine濃度は胃内胆汁逆流の程度の相違による差異は認められなかった.
6.選近迷切例では術後早期の胆汁逆流の多い時期には幽門洞部hexosamine濃度は低値を示したが胆汁逆流の減少とともに次第に増加し術前値に近づいた.
以上より術後の胃内胆汁逆流の観点から十二指腸潰瘍に対する手術術式を比較すると広範胃切例,特にBII例で著明な胆汁逆流がみられたが選近迷切例では幽門形成の有無に拘らず術後の一時期を除いて胆汁逆流は軽度であつた.選近迷切例では術直後の胆汁逆流の多い時期に幽門洞部粘膜のhexosamineの減少が示されたが,胆汁逆流の低下とともに回復し,選近迷切は粘膜防御因子の観点からも満足できる術式と考えられた.

キーワード
十二指腸潰瘍, 選択的近位迷走神経切離術 (選近迷切), 広範囲胃切除術, (広範胃切), 胃内胆汁逆流, 胃粘膜内hexosamine濃度

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