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日外会誌. 89(2): 206-214, 1988


原著

癌腫の発育進展に及ぼす発育環境の影響
―発育環境による癌腫の悪性度の相違―

神戸大学 医学部第1外科

中村 毅 , 多淵 芳樹 , 斉藤 洋一

(昭和62年4月7日受付)

I.内容要旨
遺伝形質が均ーであると考えられるVX2癌を家兎(69尾)の胃・結腸・肝・門脈に106個移植し,その発育環境を異にする実験モデルを作成して,癌腫の悪性度や発育進展に及ぼす発育環境の影響を検討し,次の通りの結果と結論を得た.
①腫瘍死までの期間は,門脈移植群は移植後3週以内に肝移植群は4週以内に全例腫瘍死したが,胃と結腸移植群は移植4週後まで全例生存した.②腫瘍の体積倍加時間は肝移植群2.6日,結腸移植群4.3日, 胃移植群5.9日であつた.③脈管侵襲時期は転移発生時期にほぼ一致し,転移は移植2週後胃移植群で25%,結腸移植群で9.1%,肝移植群で100%, 3週後それぞれ50, 60, 100%に確認された.④腫瘍の肉眼的並びに組織学的形態は胃と結腸移植群では経時的な形態変化が認められたが,肝と門脈移植群ではその変化は観察されなかつた.⑤腫瘍周辺の単核細胞浸潤は胃移植群が最も高度で,次いで結腸,肝移植群の順であつたが,門脈移植群では認められなかつた.また,線維性間質反応は胃移植群のスキルス癌様の浸潤型に高度であつたが,その他の肉眼形態を示した胃移植群並びに結腸,肝,門脈移植群ではほとんど認められなかつた.
以上の成績から,遺伝的に均ーと考えられる腫瘍の特性はその発育臓器や発育環境によつて大きく変化すると考えられ,腫瘍の悪性度の相違は主として脈管侵襲とそれに由来する転移性発育並びに腫瘍の発育速度の違いに基づいて生じることが示唆される.

キーワード
VX2癌, 悪性度, 発育速度, 転移, 発育環境

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