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日外会誌. 89(2): 155-161, 1988


原著

開腹術後における高炭酸ガス血症症例の検討

防衛医科大学校病院 救急部

瀧野 昌也

(昭和62年3月18日受付)

I.内容要旨
開腹術後に出現する呼吸障害に関しては,従来,低酸素血症の面からは多くの検討がなされてきたが,高炭酸ガス血症(以下本症)に着目した研究は,ほとんどない.そこで,本症の臨床的意義を明らかにする目的で,majorlaparotomyの術後30日以内に,血液ガス分析でPaCO2が45torr以上を呈した本症症例のうち,慢性肺疾患・麻酔・開胸操作などの影響のない50例について,その平均的臨床像,本症診断の時期と予後との関係,死因となった原因疾患等に関して, retrospectiveに検討した.
1. 全開腹症例中に占める頻度は2.4%であり,術後平均5.1日で本症と診断され, 30例(60%)は緊急手術後にみられた.また, 50例中36例(72%)の高い死亡率を示した.胸部X線写真の所見は,比較的軽度かつ非特異的なものが多かった.
2. 術後,本症と診断されるまでに日数を経過したものほど,重症感染症の合併率が高く,死亡率も高い傾向を示した.
3. 術後4日目以降に本症と診断された18例では, 15例(83%)に重症感染症を合併しており, 1例を除いて全例が死亡した.死因では敗血症が多く,その原因となった感染巣は腹部(腹腔内,後腹膜腔等)にみられたものが大部分であった.また,本症が診断された時点で,感染巣が的確に同定・処置されていたものは少なかった.
本症の原因として,術後3日以内に出現した場合は,重症感染症以外にも,浅表性呼吸,大量輸血等,複数の機序が考えられた.また,術後4日目以降では,重症感染症に起因する死腔換気率の増加が主体と推測された.
以上のように,開腹術後4日目以降に本症と診断された場合は,腹部に重症感染症が潜在する可能性が大きく,積極的な感染巣の検索と十分なドレナージの必要性を示していると思われた.

キーワード
高炭酸ガス血症, 術後呼吸不全, 重症感染症, 死腔換気率

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