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日外会誌. 88(12): 1695-1704, 1987


原著

Crohn病における虚血の意義
―動脈中膜の組織計測による微小循環動態の検討―

東北大学 医学部第1外科(主任:佐藤寿雄教授)

舟山 裕士 , 佐々木 巖 , 今村 幹雄 , 内藤 広郎

(昭和62年1月21日受付)

I.内容要旨
Crohn病の原因は不明であるが潰瘍形成機序には従来から虚血の関与が考えられている.そこで本研究ではCrohn病の切除腸管を用いた動脈中膜の組織計測によりCrohn病における血管の反応様式を検討した.対象はCrohn病18例であり,比較の目的で潰瘍性大腸炎5例,非特異性腸潰瘍9例を含む各種良性腸疾患20例の切除標本と,対照としては剖検例10例を用いた.Crohn病の病期を組織学的な病変の程度により3期に分類し,動脈中膜は各部位毎に半径Rと厚さDを求め比較検討した.また,動脈内膜肥厚のもつ意味を検討し,以下の成績を得た.
1.Crohn病を含む良性腸疾患の多くでは末梢小動脈において中膜の萎縮が認められ,微小循環系における虚血の存在が考えられた.一方,潰癌性大腸炎においては必ずしも末梢小動脈における中膜の萎縮は認められず,虚血は潰瘍形成に関して必須ではないと考えられた.
2.Crohn 病における動脈半径と中膜の厚さから作成した相関直線は症例により2 型に分類され,そのうちのI型の検討より腸間膜下部一vasa rectiにおいて中膜の肥厚が認められ,これがCrohn病に特有な血流抵抗の上昇部位と考えられた.II型では全体に中膜の萎縮がみられ,より中枢側における血流抵抗の上昇が推測された.
3.以上のようなCrohn病での動脈中膜の変化は非病変部においても認められ,かつ小腸大腸とも同様な変化を示した.
4.Crohn病では動脈内膜の肥厚は中膜の変化よりも遅れて腸間膜において高頻度に出現し2次的な変化であると考えられるが,虚血性変化の増悪因子の一つになりうると考えられた.
以上より,Crohn病では虚血が潰瘍形成の背景にあり,しかも他の良性腸疾患とは異なる特異な微小循環動態を有していると考えられた.

キーワード
Crohn病, 炎症性腸疾患, 組織計測, 微小循環, 血管病変


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