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日外会誌. 88(11): 1632-1643, 1987


原著

肺水腫の発生機序からみた肝切除後の適正輸液組成並びに輸液量の実験的研究

三重大学 医学部第1外科学教室(指導:水本龍二教授)

東口 髙志

(昭和62年1月12日受付)

I.内容要旨
肝切除後の肺水腫の発生機序や適正な輸液組成並びに輸液量を明らかにする目的で本研究を行つた.すなわち雑種成犬を用い,まず基礎的実験として正常犬にAlloxanやEndotoxinを投与して肺水腫を作成し,熱・色素二重指示薬希釈法で測定した肺血管外水分量(EVLW)と実測値とを比較してEVLWの測定における二重指示薬希釈法の有用性について検討した.次いで正常肝の80%,70%及び40%切除やDimethylnitrosamine(DMNA)硬変肝の40%切除を行い,EVLWと術後の輸液組成(lactated Ringer’s solution:RL,10%Dextrose,Dextran 40:D40)や輸液量(維持量:1~2ml/kg/h,大量:10~20ml/kg/h)との関係を検索するとともに,さらに循環動態や残存肝機能並びに網内系機能との関係についても検討を加えた.
1)熱・色素二重指示薬希釈法によるEVLWは実測値と有意の相関を示した.また肺水腫発生例はいずれもEVLW 15ml/kg以上を示したため,以下,EVLW 15ml/kg以上のものを肺水腫発生例と判定した.
2)正常肝80%及び70%切除後RL・維持量或は大量輸液群やD40・大量輸液群,並びにDMNA硬変肝40%切除後RL・維持量輸液群では高率に術後肺水腫を発生した.10%Dextrose輸液群では肺水腫の発生率は低かつた.また高い膠質浸透圧を有するD40の維持量輸液群では術後Colloid Hydrostatic Pressure Gradient(CHPG)は上昇してEVLWは減少したが,大量輸液群では高率に肺水腫を発生した.
3)残存肝機能予備力や網内系機能が低いものほど肝切除後のEVLWの増加が著しく,その機序としてはspillover現象によつて血漿中に増加したendotoxinが肺の血管透過性を亢進し,これにCHPGの低下による水力学的な機序が加わつて肺水腫が発生するものと考えられた.
以上,肺水腫の発生からみた正常肝の広範切除や硬変肝切除後の適正輸液としてはNa freeで膠質浸透圧の高い輸液を維持量投与するのがよいと考えられた.

キーワード
肝切除量, DMNA硬変肝, 肺血管外水分量, Colloid Hydrostatic Pressure Gradient, endotoxin


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