[書誌情報] [全文PDF] (2378KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 88(10): 1415-1422, 1987


原著

甲状腺分化癌に対するホルモン療法の検討
(L-チロキシン投与量について)

栗原甲状腺クリニック 
*) 岩手県立中央病院 外科

栗原 英夫 , 桑原 悦美 , 中野 善薫*)

(昭和61年11月20日受付)

I.内容要旨
甲状腺分化癌のホルモン療法として,甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)負荷にも反応しない甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌抑制を得るには,患者体重1kg当り3.5μgのL-チロキシンナトリウム(LT4)投与が適量であった.しかし,この投与量では甲状腺中毒症は来さないが,血清チロキシン(T4),遊離T4(FT4)値は高率に異常高値となったため,投与LT4を減量した症例もあった.この様な理由から,本療法のLT4投与量の再検討を試みた.
岩手県立中央病院で手術をうけた甲状腺分化癌150例についてみると,実際に投与されていたLT4量は,体重1kgあたり2.1μgから4.8μgで,投与LT4と血清のT4, FT4, トリヨードチロニン(T3),遊離T3(FT3), TSH値との間には相関性はなかった. これら症例の約80%に於て,血清FT4は異常高値を示したが, T3およびFT3値はT4値に関係なく,ほぼ全例に於て正常であった. リバーストリヨードチロニン(γT3) は約40%に於て高値で, FT4値との間に相関性が認められた.
以上の成績よりみて,生体は血中のT4値が異常に増加すると,より多くのT4をホルモン作用のないγT3へ脱ヨードして,血清T3値を正常域内に保とうとする働きのあることがうかがわれた.すなわち,間脳ー下垂体一甲状腺系の代謝調節機構の他に, T4からT3へ,またはT4からyT3へ脱ヨードする量を加減することにより代謝を調節する機構もあることが推測された.
また,甲状腺分化癌のホルモン療法に用いる薬剤としては,乾燥甲状腺末やL-トリヨードチロニンナトリウム(LT3)よりもLT4がより安全で,過量に投与されたLT4はホルモン作用のないγT3へ脱ヨードされる.
LT4投与量の目安としては,血清FT3値を正常域内に保つように心掛けることが重要で,血清T4やFT4は増加しても甲状腺中毒症を来すことはないのであまり考慮する必要はない.

キーワード
甲状腺分化癌, ホルモン療法, L-チロキシン投与量, 遊離トリヨードチロニン(FT3), リバーストリヨードチロニン(γT3

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。