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日外会誌. 88(8): 991-999, 1987


原著

重症大動脈弁膜症の術後予後に関与する危険因子の研究

筑波大学 臨床医学系外科

岡村 健二 , 渡辺 泰徳 , 小石沢 正 , 前田 肇 , 三井 利夫 , 堀 原一

(昭和61年11月7日受付)

I.内容要旨
手術時期を逸した場合の術後予後が極めて不良である大動脈弁膜症の手術予後に関与する危険因子について検討した.対象は当院で単独AVRを受けたAR 23例とAS 20例である.術直後におけるLOSおよび遠隔期心原性突然死に関与する大きな因子は心筋の肥厚,変性にもとつく心内膜下虚血であろうと推測し,選択的冠動脈造影にて異常のなかつたAR 18例の左室心筋断面積係数(CSAI)と心電図左側胸部誘導におけるST低下との関係を調べたところ有意な相関(Y=5.1X+17.3,r=0.70,p<0.001)を認め,CSAIが大なるほどST低下が大でありこの推測の妥当性が証明された.そこで,CSAI 20cm2/m2以上をC-I群,未満をC-II群とし,左室機能の指標であるEF 50%未満をE-I群,50%以上をE-II群としLOSおよび遠隔期心原死の発生頻度について検討した.ARのC-I群では55%がLOSを合併,LOSによる死亡,遠隔期心原死が共に18%と極めて高い頻度を示したがC-II群ではなかつた.ASでもC-I群にLOSの発生が67%にみられ遠隔期心原死が33%にみられたがC-II群ではなかつた.EFよりの比較ではE-I群のARでLOSが44%,LOSによる死亡,遠隔期心原死はそれぞれ22%と高率であつたがEFのよいE-II群においてC-Iに属する症例にLOSの発生を認め,ASでもE-II,C-Iに属する症例が遠隔期心原性突然死を来たしCSAIの関与の大きさを示唆した.突然死例の剖検組織像にて左室心内膜下側に心筋線維の著しい肥厚と線維化を認め,このようになる前に手術を行うことの必要性と術後心原死を防ぐ対策の重要性を痛感した.この意味から,CSAI 20cm2/m2以上は大動脈弁膜症の手術予後を左右する危険因子であり術後なおCSAIが20cm2/m2をこえる症例には抗Ca剤を投与しつつ慎重に経過観察を行つている.

キーワード
大動脈弁膜症, 手術危険因子, 低心拍出症候群, 心原性突然死, 左室心筋断面積係数


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