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日外会誌. 88(8): 939-946, 1987


原著

食道癌切除術後の高ビリルビン血症の検討

大阪大学 医学部第2外科

辻仲 利政 , 城戸 良弘 , 小川 嘉誉 , 森 武貞

(昭和61年10月13日受付)

I.内容要旨
食道癌切除術後の高ビリルビン血症の発生頻度及びその成因について検討を加えた.検索症例は1969~85年の術後検査値の明らかな全食道癌切除症例239例である.さらに1979年以降の128例について詳細に分析し,同時に施行された胃全摘術後及び結腸切除術後例と比較した. 
術後高ビリルビン血症〔Bili. ≧2,黄疸指数(I.I)≧15〕は,平均46.9%の症例に発生していた.完全静脈栄養(TPN)導入後(1976年以降)の発生率は55.9%と経腸栄養を用いていたそれ以前の時期の発生率31%と比較し,有意に高くなつていた.全体では,胸骨後再建術後57.8%と有意に発生率は高かつたが,1979年以降では術式別の発生率の差はなかつた.1979年以降胃全摘術後(28%),結腸切除術後(12%)と比較し,食道癌切除術後(59%)に有意にその発生率は高かつた.内でも高ビリルビン血症のみ術後にみられた症例の割合が52%と過半数を占めていた.各要因の解析から,高ビリルビン血症をもたらす危険因子として,術前栄養状態の低下(低栄養指数)及び手術侵襲の増加(長時間手術)が考えられた.ビリルビン値の高い群(A群:Bili.≧3.5)では,他の合併症を併発する例が67.7%と高く,ビリルビン値の低い群(B群:3.5>Bili.≧2)と対照群(Bili.<2)では差がなかつた.高ビリルビン血症単独発生例では,A,B群ともに術後胆汁うつ滞を呈し,1週間目にビリルビン値が最高となり以後軽快していた.とくにA群ではGOT,GPT上昇及び白血球増多症を呈する例が多くみられた. 
以上より食道癌切除術後の高ビリルビン血症の成因として,TPN施行下で大きな手術侵襲が加わること及び術後に生じる胆汁うつ滞に肝障害または感染症が付随することが考えられた.

キーワード
食道癌手術, 高ビリルビン血症, 術後合併症, 完全静脈栄養 (TPN)

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