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日外会誌. 88(7): 864-871, 1987


原著

甲状腺癌術後テタニー時における赤血球のCaとpHの動態

名古屋大学 医学部第2外科 (主任教授:高木 弘)

藤本 牧生 , 水野 茂

(昭和61年8月20日受付)

I.内容要旨
甲状腺癌術後テタニー時における細胞 (内) Caの変動を知る目的で, 一般体細胞の代用として赤血球を用い, 上皮小体全摘および自家移植後の赤血球のCaとpHそしてP, Cl, PCO2, HCO3-を経時的に測定した. 対象は術後テタニー症状が出現して補充療法を行つたテタニー群8例とテタニー症状がなく補充療法を必要としなかつた非テタニー群7例の計15例である.
赤血球Caはテタニー群で上昇し術後3日目に頂値を示した. 非テタニー群では血清Caの低下とともに赤血球Caも低下傾向を示して, 両群間の赤血球Caは術後3日目と5日目に有意差 (p<0.05) を認めた. しかし血清Caはともに低下し有意差がなかつた. 血清Pは術後5日目からテタニー群でさらに上昇する一方, 非テタニー群では正常に復する傾向を示し両群間に有意差 (p<0.05) を認めた. 赤血球Pの変動は両群とも血清Pの変動に比べて小さかつた. テタニーが発生する3日目前後は, 主としてPCO2低下による呼吸性アルカローシスが起こりpH上昇がみられた. とくにテタニー群の方が非テタニー群に比べて血漿pHが有意 (p<0.05) に上昇していた. 赤血球pHも, テタニー群で術後3日目に頂値となり, 非テタニー群に比し有意差 (p<0.001) を認めた. 術後5日目以後は, 両群ともHCO3-濃度の上昇がみられたが, テタニー群の血清Cl濃度低下は非テタニー群に比し有意 (p<0. 05) に強く, 赤血球Clも同様な傾向を示した. 以上のことより, 血清Ca値よりも細胞Ca値の変動の方がテタニー発症により強く関与しており, また細胞pHの上昇も血漿pHとともにテタニーを誘発する一因になつている可能性が示唆された. テタニー群では, 血清Clの低下とともに血清Pの回復が遅れたことも考慮すると, 上皮小体機能の回復も遅延することが考えられた.

キーワード
甲状腺癌, 上皮小体自家移植, テタニー, 赤血球Ca, 赤血球pH

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