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日外会誌. 88(5): 633-636, 1987


症例報告

鈍的腹部外傷による左総腸骨動脈急性閉塞の1例

佐賀医科大学 胸部外科

上野 哲哉 , 渡辺 泰徳 , 湊 直樹 , 桜井 淳一 , 樗木 等 , 夏秋 正文 , 伊藤 翼

(昭和61年7月16日受付)

I.内容要旨
交通事故時のハンドルによる腹部打撲の結果,左総腸骨動脈の急性閉塞と腸間膜裂傷をきたした1例を経験した.鈍的腹部外傷による腸骨動脈の血管損傷は文献上稀であり,解剖学的位置関係より腹腔内臓器の合併損傷を伴う場合が多いのが特徴である.本症例は,左下肢の脈拍の欠如,冷感,チアノーゼおよび腹部膨満をきたし,血管造影にて,左総腸骨動脈の閉塞と上腸間膜動脈末梢部での造影剤の漏れが確認された.受傷後4時間半後に開腹し,腸間膜裂傷部修復,動脈損傷部切除および人工血管による血行再建を行なつたが,切除血管における,めくれこむような全周性の内膜の解離とそれによる内腔の閉塞が特徴的な所見であつた. 
本症は,放置すれば高頻度に下肢の壊死をきたすので迅速な診断と血行再建を施行しなければならない.そのためには,鈍的腹部外傷時には,他の合併臓器損傷にのみ注意を奪われずに,常に本症の可能性を考慮し,下肢の色調,冷感,脈拍等の注意深い観察が必要である.

キーワード
鈍的腹部外傷, 急性腸骨動脈閉塞


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