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日外会誌. 88(5): 600-606, 1987


原著

甲状腺癌の気道浸潤様式についての検討

大阪大学 医学部第1外科

津森 孝生 , 中尾 量保 , 宮田 正彦 , 森田 実 , 伊豆蔵 正明 , 中原 数也 , 川島 康生

(昭和61年6月6日受付)

I.内容要旨
気道浸潤甲状腺癌に対し,喉頭または気管合併切除術を23例に施行した.これらの切除標本をもとに,気道浸潤様式を浸潤部位により軟骨部浸潤(I型)と膜様部浸潤(II型)に分類し,さらにI型を程度により3亜型に細分類し,臨床病理学的に比較検討を行つた. 
Ia型)線維膜浸潤型(7例):外膜一軟骨膜までの浸潤で,気管粘膜への浸潤は認められなかつた.臨床所見では嗄声はみられたが,気道出血はなく,呼吸困難の程度も軽度であつた.組織型は高分化癌3例,低分化癌3例,髄様癌1例であつた.手術予後は良好で全例生存している. 
Ib型)軟骨輪間浸潤型(5例):浸潤範囲は3~8軟骨輪に及び,食道浸潤が3例に認められた.嗄声の他に気道出血が3例,呼吸困難の程度もIII以上が4例であつた.組織型は高分化癌1例,低分化癌4例であつた.術後は3例は生存,2例が死亡した.
Ic型)軟骨破壊浸潤型(2例):3~4気管軟骨の破壊および粘膜浸潤が認められた.気道出血が2例,呼吸困難の程度もIII,IVと強度であつた.組織型はいずれも低分化癌であつた.術後は2例とも健在である. 
II型)膜様部浸潤型(9例):気管膜様部への浸潤が認められ,浸潤範囲も2~9軟骨輪に及び,食道浸潤が7例とI型に比し高頻度にみられた(p<0.05).臨床所見では気道出血が5例,呼吸困難はIII以上が6例であつた.組織型は高分化癌1例,低分化癌3例,未分化癌4例,扁平上皮癌1例であり,I型に比し未分化な組織型が多かつた(p<0.05).術後は2例が生存,7例が死亡しI型の各型に比し予後不良であつた(p<0.05). 
以上の結果,I型とII型では他臓器浸潤の程度,組織型,予後の異なることが分かつた.またI型の各型間では,Ia型に比しIb,Ic型になるに従い症状が強くなり,有意差はないが低分化癌の頻度が増加し,予後が不良になる事が予想された.

キーワード
甲状腺癌, 気道浸潤, 気道浸潤様式, 気管形成術, 甲状腺低分化癌

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