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日外会誌. 88(5): 584-593, 1987


原著

切除不能肝癌に対するalbumin microsphereを用いた塞栓癌化学療法の研究

千葉大学 医学部第1外科学教室(主任:奥井勝二教授)

遠藤 文夫

(昭和61年7月1日受付)

I.内容要旨
Mitomycin C(MMC)含有albumin小球体(MMC MS)の動脈内投与に関する研究をVX-2移植家兎および切除不能肝癌症例に対して行つた.MMC MSは加熱処理した直径45±8μmのalbumin小球体に5%のMMCを混じたもので,家兎の下肢に移植されたVX-2腫瘍が直径2cmとなつた時点で1.2mg/kgの市販MMCあるいはMMC MSを,大腿動脈内に注入し,control群,MMCを含まないblank microsphere投与群との腫瘍増殖の差を検討した.他の3群では明らかな差は認められなかつたのに対して,MMC MS群は著明な増殖抑制効果を示し,移植後4週で腫瘤はほとんど消失していた.また,薬剤投与後の下肢筋肉内および両側大腿静脈内MMC濃度を経時的に測定したが,市販MMC動注では約7分の半減時間で減少して2時間後には消失していたが,MMC MSではMMCを徐々に放出し6時間以上にわたって高い組織内濃度を維持した. 
当教室において経験した切除不能肝癌19例に対し,MMC MS 4~40mgの肝動脈内注入を行い42%の有効率が得られた.また,同様症例の15例に対し市販MMC肝動注を施行したが有効率33%で,両群間に有意差は認められなかつた.しかし,転移性肝癌ではCEAはMMC MS群で平均57.7±72.2ng/mlから16.5±21.6ng/mlと低下し,個々の変化率はMMC MS群33.8±20.4%,市販MMC群104.7±80.5%でCochran-Cox法による検定では有意水準0.05以下でMMC MS群の方が有意に低下した.平均生存期間はMMC MS群14.1±82.9月,市販MMC群6.7±2.8月であり,両群の生存曲線の差を,Generalized Wilcoxon testにより検定するとz=8.302,p=0.0040においてMMC MS群の方が優れていた.
以上のことから,MMC MS肝動注によるdrug delivery systemにより標的組織への薬剤効率が向上し,安全かつ有効な投与が可能であることが確認されたので,今後の広い臨床応用が期待された.

キーワード
塞栓化学療法, 切除不能肝癌, Albumin microsphere, Mitomycin C microsphere, Microsphere

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