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日外会誌. 88(4): 469-477, 1987


原著

実験的急性膵炎における脂質代謝の変動

岡山大学 医学部第1外科教室(主任:折田薫三教授)

田中 裕

(昭和61年5月26日受付)

I.内容要旨
急性膵炎に伴う脂質代謝の変動を検討する目的で以下の実験を行つた.
雑種成犬を使用し,2群の急性膵炎モデル(胆汁膵炎一重症型.collagenase膵炎一軽症型)を作製,経時的にfree fatty acid(FFA),triglyceride(TG),immunoreactive insulin(IRI),immunoreactive glucagon(IRG)の変動を測定し,control群(単開腹群)と比較した.さらに24時間後,3日後,1週間後に経静脈的脂肪負荷試験(IVFTT),postheparin lypolytic activity(PHLA)の測定を行つた.
組織学的には,胆汁膵炎では膵内外分泌細胞の壊死が広範囲にみられる出血壊死型膵炎の像を示し,collagenase膵炎では腺細胞の壊死像はみられず間質への炎症細胞の浸潤が著明な間質浮腫型膵炎の像を示した.
1)急性膵炎発症6時間後よりFFAは上昇を続け24時間で最高値を示し,24時間までが脂肪動員期と考えられた.TGはFFAより遅れて2日後,3日後に高値を示し,1週間後には正常値となつた.control群では24時間までFFAの軽度増加を示したが,TGの変動はみられなかつた.
2)IRGは24時間まで上昇を続け,24時間後に最高値を示し,FFA値とIRG値が有意な正の相関を示すことからIRGの上昇が脂肪動員の原因と考えられた.また3日後にみられるPHLAの低値,IVFTTにおけるK値の低下から,高TG血症の原因として脂肪処理能力の低下が考えられた.
3)組織学的に重症型を示した胆汁膵炎では軽症型のcollagenase膵炎に比べ,IRI,IRGの変動も強くみられ,FFAの上昇,TGの上昇も著明であつた.これらの事より急性膵炎に合併する高脂血症はIRI,IRGの不均衡に起因すると考えられた.

キーワード
急性膵炎, 脂質代謝, 膵ホルモン, 脂肪負荷試験, PHLA(postheparin lypolytic activity)


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