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日外会誌. 88(1): 109-118, 1987


原著

長時間心阻血・再灌流に対する各種薬剤併用前処置の心筋保護効果
―lysosome,cyclic nucleotideと心筋障害―

東京医科歯科大学 胸部外科(主任:鈴木章夫教授)

横山 基幹

(昭和61年4月28日受付)

I.内容要旨
心筋虚血障害におけるlysosome,cyclic nucleotideの関与を,心筋逸脱酵素との関連から血清生化学的に検討するとともに,各種薬剤併用による前処置(pretreatment)の心筋保護効果について実験的検討を行なつた. 
実験には雑種成犬12頭を用い,CoQ10,Aprotinin,Betamethasone,Nifedipineを前処置した群をPre⊕群,前処置しなかつた群をPre⊖群とした.両群とも完全体外循環下3時間の大動脈遮断後,1時間の再灌流を行い,遮断前,再灌流5分,30分,60分の各時点で冠静脈血を採血し,CK-MB,m-AST,NAG,β-Glucuronidase(以下β-Glu),cyclic AMP(以下cAMP),cyclic GMP(以下cGMP)を測定し,以下の結果を得た. 
1)Pre⊕群はPre⊖群に比し有意にm-AST,NAG,β-Gluの上昇が抑制された.2)CK-MB,m-AST,NAG,β-Glu間に,β-Glu vs. NAG>m-AST vs. β-Glu>m-AST vs. NAG>m-AST vs. CKMBの順に有意な正の相関を認めた.3)cAMP/cGMP比は両群とも再灌流後上昇したが,Pre ⊖群ではその上昇は有意なものであつた.4)遮断前においてはβ-Glu,NAG,m-ASTとcAMP間に有意な負の相関を,逆に再灌流5分の時点ではNAG,m-ASTとcGMP間に有意な負の相関を,cAMP/cGMP比間に有意な正の相関を認めた.
以上の結果より薬剤前処置の有効性と心筋虚血障害におけるlysosomeの重要性が認識され,血清酵素学的指標としてみた場合のm-ASTの有用性が示唆された.また,cAMP/cGMP比の上昇は心筋虚血障害を反映し,虚血時にはcGMPが,非虚血時にはcAMPが主体となつてlysosome,心筋障害に関与している事が示唆された.

キーワード
長時間心阻血, 心筋逸脱酵素, lysosome, cyclic nucleotide, 薬剤前処置

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