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日外会誌. 88(1): 63-73, 1987


原著

グルカゴンの肝循環,肝組織血流量および ICG 排泄におよぼす影響の実験的,臨床的研究

自治医科大学 消化器一般外科(指導:柏井昭良教授)

安田 是和

(昭和60年11月26日受付)

I.内容要旨
グルカゴンの肝循環,およびICG排泄に及ぼす影響を,実験的,臨床的に検討した. 
雑種成犬におけるグルカゴンの肝循環に与える最も大きな影響は,上腸間膜動脈の血管抵抗の減少と血流量の増大であり,この結果,門脈流量も増加した.門脈の血管抵抗には有意な変動はみられなかつた.肝動脈もグルカゴンによつて血管抵抗の減少と血流量の増加がみられるが,投与後30分以後では,逆に肝動脈血流量の減少が認められ,これは,上腸間膜動脈と肝動脈に対するグルカゴンの血管拡張作用の感度の差によるものと,推察された. 
水素ガスクリアランス法による肝組織血流量は,電磁流量計によつて測定された肝血流量(肝動脈流量と門脈流量の和)によく相関したが,局所肝組織血流量は,肝内では,必ずしも一定ではなく,測定部位により差異が認められた. 
局所肝組織血流量は,低灌流領域(0~50ml/min/100g)では,低濃度のグルカゴンによつて血流量の増加率が高く,逆に高灌流領域(50~100ml/min/100g)ではグルカゴンに対する血流増加率は有意に低く,グルカゴン負荷量に対する局所肝組織血流量の増加率は,負荷前の局所肝組織血流量によつて差異が認められた.このグルカゴンによる肝内血流分布の変化は,主に門脈血流の変化によつて生ずることが推測された. 
犬に,グルカゴンとICGを同時に負荷すると,グルカゴンはICGの排泄を促進させ,臨床的に,肝硬変症および対照群にグルカゴンとICGを同時に負荷したところ,対照群では時間の経過とともにICGの排泄促進がみられたのに対し,肝硬変症ではICGの排泄促進は乏しく,このことは,肝硬変症においては,肝血流量のグルカゴンに対する反応性の低さを示しており,グルカゴン・ICG負荷試験は,肝循環よりみた肝の予備能を知り得る検査法として有用であろう事が示唆された.

キーワード
グルカゴン, 肝循環, 肝組織血流量, ICG 停滞改善率, 水素ガスクリアランス法


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