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日外会誌. 88(1): 26-34, 1987


原著

器官培養法を応用した残胃粘膜発癌に関する実験的研究
―ヒト胃粘膜 DNA と N-〔methyl-14C〕-N'-nitro-N-nitrosoguanidine との結合量の測定―

久留米大学 医学部第1外科学教室(主任:掛川輝夫)

橋本 謙

(昭和61年2月17日受付)

I.内容要旨
残胃癌の発生機序については,その発生母地のもつ特異性から,それに起因する.いろいろな修飾因子の関与が推測されている.ことに十二指腸液逆流によつて生ずる残胃粘膜の形態学的変化については興味深い面が多い.本研究は器官培養法を応用し実際にヒト胃粘膜に発癌剤を使用させることに成功したので,この技術を利用し発癌物質が生体成分に結合する過程で残胃環境が促進的に働くか,否かについてN-〔methyl-14C〕-N’-nitro-N-nitrosoguanidineを用いて検討を行つた.
その結果,発癌剤の細胞内DNA結合量は残胃粘膜ではcontrol群にあたる胃上部胃底腺領域にくらべ有意に増加した.さらに,本実験では,ヒト胃粘膜を胆汁にさらすことによつて,このような発癌剤の細胞内DNA結合量が増加する結果が得られたことから,胆汁酸のもつ界面活性的作用が発癌剤の標的細胞に対する攻撃を増強せしめるものと考えられた. 
一方,残胃粘膜にみられた慢性胃炎は萎縮性変化が主体をなしており,かかる粘膜のオートラジオグラフィー所見では発癌物質の標的細胞となる未成熟な細胞が多数出現し,胃炎の進行に伴い,増殖帯の延長がみられた.すなわち,胆汁酸にさらされ易いヒト残胃粘膜では発癌剤との結合が促進され,大部分の残胃粘膜でみられる萎縮性変化は標的細胞となる未成熟な細胞が多数出現してくることから,残胃癌発生の恰好の母地となりうることが示唆された.

キーワード
残胃癌, 胆汁酸, 器官培養法, 14C-MNNG, 萎縮性胃炎


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