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日外会誌. 87(12): 1548-1558, 1986


原著

肝再生におよぼす脾因子に関する実験的研究

大阪市立大学 医学部第1外科(主任:梅山 馨教授)

大平 雅一

(昭和61年3月14日受付)

I.内容要旨
肝部分切除後に起こる肝再生はラットやマウスなどで広く研究されているが,肝再生促進因子の研究に比較すると抑制因子に関する研究は極めて少ない.しかし肝部分切除に先立つてあらかじめ脾摘を行なうと肝再生が促進されるとの報告があり,脾由来の可溶性因子が肝再生を抑制する可能性が示唆されている.著者はこの脾由来の肝再生抑制因子の存在を脾抽出液および脾静脈血について検討し,その分離を試みるとともに,若干の性質の検討を行ない,以下の成績を得た.
ラット初代培養肝細胞に正常ラット脾抽出液を加えて3H-thymidineのDNA分画へのとりこみを指標として検討した結果,培養肝細胞における3H-thymidineのとりこみ(DNA合成)は脾抽出液添加の有無にかかわらず,培養開始48時間後に最高に達したが,脾抽出液非添加対照群に比して脾抽出液(3mg蛋白/ml)添加群ではDNA合成が有意に低値を示した.またこの脾抽出液による3H-thymidineのとりこみの抑制はその添加濃度に依存して増大する傾向を認めた.一方,正常ラットの脾静脈血清を培養肝細胞に添加すると3H-thymidineのとりこみは大動脈または下大静脈血清添加培養群に比較して有意に強く抑制された.また,胸腺,リンパ節または腎臓から同様にして調整した抽出液も培養肝細胞における3H-thymidineのとりこみを抑制したが,その抑制活性は脾抽出液よりも低かつた.この脾抽出液中に検出される肝再生抑制活性は熱に不安定であり,100℃,3分または56℃,30分の加熱処理によつて失活し,またトリプシン処理によつても抑制活性は消失した.かかる脾抽出液をSephadex G-75カラムを用いるゲル濾過で分画すると,肝再生抑制活性は一定の分画に集中的に回収され,その溶出位置から分子量50,000~60,000の物質であると推定された.以上の成績から,脾臓から肝細胞の増殖を抑制する蛋白様の物質が遊離する可能性が示唆された.

キーワード
肝再生, 肝再生抑制因子, 脾因子, 培養肝細胞, DNA 合成

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