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日外会誌. 87(12): 1503-1510, 1986


原著

手術前後のいわゆる止血剤投与の是非
ー我が国における術後止血剤の使用状況ー

1) 鹿児島大学 医学部第1外科
2) 癌研究会附属病院 外科

小代 正隆1) , 西 満正2)

(昭和61年3月31日受付)

I.内容要旨
我が国では従来から手術後,止血剤の投与がなされて来た.欧米では逆に深部静脈血栓(DVT)や,肺梗塞の危惧からヘパリンなどの抗凝固剤の投与が試みられている.近年我が国でも血栓症の増多が注目され,特に癌患者の血栓傾向や,遊離癌細胞の着床に血栓傾向,循環障害が促進的に働く事が我々を始めとして多く指摘されている.又術後は血栓傾向になる事も広く知られていることから,術後の止血剤投与に疑問を呈して来た.今回,全国大学病院外科,産婦人科,整形外科454施設,胃癌研究会所属消化器外科112施設,計566施設に対し,止血剤の使用有無,方法,種類についてアンケート調査を行い339施設(60%)からの回答を得た.回答を便宜上,意識的積極的投与,慣習的投与,選択的投与,原則的非投与,意識的非投与の5群に分け,外科については消化器,呼吸器,循環器に分け検討した.
診療科別では積極的投与は外科44.5%,産婦人科47.6%,整形外科37.3%に対し意識的非投与は外科16.9%,産婦人科9.5%,整形外科29.4%であつた.外科臓器別では積極的投与は,消化器45.3%,呼吸器40.6%,循環器20.5%に対し,意識的非投与は消化器10.8%,呼吸器32.1%,循環器40.6%であつた.特殊状態での投与は,肝硬変,閉塞性黄疸,大量出血時に80%が投与しているが,全く非投与が肝硬変5.8%,閉塞性黄疸9.7%であつた.原則的非投与施設ではVitamin Kのみの投与が多く,薬別別ではアドレノクローム,抗プラスミン剤などが多いが,診療科により違つた傾向がみられた.DVTの原因には癌,妊娠,手術後が多いが,いずれも凝固充進,線溶能の低下,血小板機能亢進症,粘度の上昇などから,血栓傾向,循環不全状態である.閉塞性黄疸手術に於ても同じで,又手術時,止血剤の使用有無による出血量,出血合併症は有意差がない事から,術後止血剤の使用是否の問題点を,凝固線溶,血小板,粘度,プロスタグランディン,カリクレインの各因子の動態から考察した.

キーワード
手術, 凝固線溶血小板, 止血剤, 静脈血栓, 出血


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