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日外会誌. 87(11): 1449-1460, 1986


原著

膵癌症例における膵癌胎児抗原 (POA)の血清学的および免疫組織化学的検討

慶應義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

菱沼 正一

(昭和61年1月21日受付)

I.内容要旨
Gelderらにより調整された膵癌胎児抗原(POA)は,著者の二次元電気泳動法で,分子量600,000~800,000,pI 3.8~5.6の領域に位置することが判明した.本研究では,EIA法による著者らが開発した測定系を用いて,膵癌症例を中心に血清POA値を測定し,POAの膵癌のマーカーとしての臨床的有用性を検討するとともに,酵素抗体法で膵癌組織と胎児膵におけるPOAの局在を明らかにし,POAの性格の解明を試みた.
血清POAは膵癌で高値を示し,70.6%(36/51)の陽性率を得たが,肝・胆道癌でも高値を示し,POAによる両者の鑑別は困難である.一方,血清POAは膵良性疾患では高値を示さず,膵癌と膵良性疾患の鑑別に有用である,膵癌ではStageによる血清POA値の差はなかつたが,非切除例は切除例より高値を示し,Stage IVでは肝転移例の方が非肝転移例より高値を示した.血清POA値と腫瘍径,癌の分化度および組織型との間に明らかな関連はなかつた.POAは腫瘍最大径2.0cm以下の小膵癌症例で陽性であり,Stage II症例でも70.0%の陽性率を認めたが,POAによる膵癌の早期診断には限界があると考えられた.膵癌切除症例で術後血清POA値の推移をみると,術前POA陽性5例のうち正常値に近い1例を除く4例で,再発とともにPOA値の再上昇をみた.したがつて,術前POA高値の膵癌では,POAは術後再発のモニターとして有用である.
膵癌組織ではPOAは80.0%(28/35)に検出され,かつ染色性は高分化型腺癌で高かつたが,非癌部膵組織にはPOAはみられなかつた.癌組織POA陽性群では陰性群に比し血清POAは高値を示したが,染色性と血清POA値間に関連はみられなかつた.胎児膵では12~16週齢にはPOAは検出されなかつたが,22週齢で認められた.したがつて,POAは癌胎児性抗原であると考えられた.

キーワード
腫瘍マーカー, 膵癌胎児抗原 (POA), 酵素免疫測定 (EIA) 法

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