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日外会誌. 87(11): 1398-1405, 1986


原著

食道癌術中術後の血中抗利尿ホルモンの動態
(術中の ADH 分泌亢進の要因と,術後の血中 ADH と尿量の関係について)

東北大学 医学部第2外科(指導:葛西森夫教授)

加納 正道

(昭和60年11月7日受付)

I.内容要旨
抗利尿ホルモン(以下ADH)は,手術侵襲により分泌が亢進し,術中術後に乏尿をもたらすと言われている.しかし術中術後における血中ADHの動態や,ADHと尿量との関係は.いまだ明らかではない.そこで本研究では,血中ADHの術中術後の動態と,ADHが水分電解質代謝に与える影響を調べるために,食道癌手術の術中11症例と術後10症例において,血中ADHを測定し,(1)術中の血中ADHの変動と,その分泌を充進させる要因.(2)術後の乏尿と血中ADHの関係を中心に検討を加え,以下の結論を得た.
(1)(a)血中ADHは術前4.0pg/ml,執刀後59pg/ml,開胸後190pg/ml,そして迷切後には276pg/mlへと上昇し,以後しだいに減少した.
(b)術中の血漿浸透圧,血圧,左房圧には有意の変動はなかつた.
(c)執刀後の血中ADH上昇は,硬膜外麻酔によつてある程度抑制された.
以上の結果より術中のADHの分泌亢進には,Osmoreceptor,Baroreceptor,Volume receptorを介さない.1)執刀による痛み刺激,2)胸腔内操作による刺激,3)迷走神経の切断が主な要因であると考えられる.
(2)(a)血中ADHは術直後には114pg/mlと高値であつたが,その後低下して第2病日の午前に4.3pg/mlとほぼ正常となつた.
(b)時間尿量は,術前平均74ml/hで,術直後は95ml/hとやや増加し,第1病日午前に40ml/hと著明に減少した.第1病日午後より尿量が増加して,利尿期に入つた.
(c)術直後より利尿期にかけて尿量は血中ADHとは相関せず,第1病日以後の利尿期になつてはじめて尿量と血中ADHは相関する傾向にあつた.
以上の結果より血中ADHの上昇は,術後の乏尿の主な要因とは言えない.

キーワード
抗利尿ホルモン, 食道癌手術, 術後乏尿, 水分電解質代謝, 循環動態変化

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