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日外会誌. 87(10): 1344-1351, 1986


原著

下行大動脈遮断時の脊髄虚血予防に関する研究
-術中脊髄虚血モニターとしての脊髄誘発電位の応用-

北海道大学 医学部第2外科教室(主任:田辺達三教授)

松居 喜郎

(昭和61年1月8日受付)

I.内容要旨
大動脈瘤手術時の大動脈遮断に伴う脊髄虚血による対麻痺の発生は必ずしも稀ではなく,その予測・予防に関して従来種々の報告があるが,未だ満足すべき方法は確立されていない.また大動脈遮断時に脊髄虚血に対する詳細な検討も未だ必ずしも十分ではない.そこで末梢神経虚血の影響をうけにくく,比較的波形導出の容易な硬膜外刺激,硬膜外或いは椎間板導出による脊髄誘発電位(ESP)を用い,実験及び臨床にて大動脈遮断時の脊髄機能評価を行い,興味ある知見を得た.成犬23頭を用いた実験で左鎖骨下動脈直下での大動脈遮断後ESP波形変化に3型が得られた.TYPE-I(8頭)は波形振幅が低下~消失し,TYPE-II(10頭)は波形変化なく,TYPE-III(5頭)は一過性の波形振幅低下の後,遮断を続けているにも拘らず波形は回復傾向を示した.ESP波形の大動脈遮断からの経時的振幅変化をみると,TYPE-Iでは波形振幅が1/2となるまでの時間は7~55分と個体差が大きく,TYPE-IIIでは大動脈遮断後,20~30分後に波形の回復傾向がみられた.波形変化と術後麻痺の有無とは極めて良い相関がみられ,TYPE-Iの死亡例を除く7頭中5頭(71%)に麻痺がみられ,TYPE-IIには麻痺はみられなかつた.TYPE-IIIでは5頭中1頭(20%)に麻痺がみられた.以上の実験結果に基き臨床13例について術中ESPモニターを施行し,2例にTYPE-I,10例にTYPE-II,1例にTYPE-IIIの波形変化をえたが,大動脈遮断の早期解除及び一時バイパスの再設置等により全例術後麻痺はさけ得た.以上から脊髄は血行の多様性等のためか,従来の報告とは異り大動脈遮断のみでは機能を維持する群があるが,その他の群は高い確率で術後麻痺に陥る事が判明した.また臨床上ESPモニターは高い再現性があり,評価も比較的容易である事から極めて有用と思われた.

キーワード
大動脈瘤, 脊髄麻痺, 脊髄誘発電位, 体性感覚誘発電位

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