[書誌情報] [全文PDF] (4058KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 87(8): 883-888, 1986


原著

甲状腺乳頭癌に対する広範囲リンパ節郭清術と転移リンパ節の検討

名古屋大学 医学部第2外科

水野 茂 , 舟橋 啓臣 , 杉浦 勇人 , 今井 常夫 , 竹内 元一 , 佐藤 康幸 , 高木 弘

(昭和60年12月10日受付)

I.内容要旨
腫瘍の大きさやリンパ節腫大の有無とは無関係に,可動性があるため比較的早期の症例と考えられた甲状腺乳頭癌71例に両側頸部のリンパ節郭清を行つた.このうち33症例には胸骨の縦切開を行つて,上前縦隔内リンパ節の郭清も追加した.1人当たりの検索リンパ節数は平均89.9個,転移リンパ節数は13.8個であり,全症例の88.7%に転移を認めた.リンパ節転移は患側に多い傾向はあるが同時に少しずつ全頸部にわたつて散在しており,通常のR1郭清術式では全症例の50.7%に転移リンパ節を取り残す結果となつた.転移の好発部位として患側の気管旁リンパ節に66.2%,下および上内深頸リンパ節に62.0%および59.0%,気管前リンパ節に50.7%,甲状腺旁リンパ節に47.9%が顕著であつた.とくに気管旁および気管前リンパ節が内深頸リンパ節に比べて生理的に絶対数が少ないのにこれほどの高値を示したことは,転移に際してこの方向に向かうリンパ流の極めて重要なことを示唆している.事実これらのリンパ節に直接連続している縦隔内のリンパ節には,上前縦隔郭清をした症例のうち,頸部操作からでは容易に切除できない部位に39.4%もの転移が認められた.本症は高率なリンパ節転移にかかわらず予後が非常に良好な疾患であるので,この手術をしてもR1術式に比べて将来生存率の改善がえられるかどうかは不明である.しかしこの術式を行うようになつてから既に7年以上を経過しているにもかかわらず,後遺症らしきものが見られないことのほかに,まだ1例も再発兆候のないことは特記すべきことと思われる.すなわち少なくとも担癌生存の苦しみを軽減できることだけでも本法は非常に有意義な術式と考えられる.

キーワード
甲状腺乳頭癌, modified neck dissection, 広範囲リンパ節郭清, リンパ節転移率, 縦隔内リンパ節転移

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。