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日外会誌. 87(6): 697-703, 1986


原著

術後肺癌患者における凝固動態と抗凝固療法の効果

東海大学 医学部第1外科

小川 純一 , 鶴見 豊彦 , 井上 博元 , 井上 宏司 , 小出 司郎策 , 川田 志明 , 正津 晃

(昭和60年9月29日受付)

I.内容要旨
術後肺癌患者70名について血小板の粘着,凝集時に放出されるβ-トロンボグロブリン(β-TG)を測定した結果,正常対照群に比べ有意に増加しており,凝固状態の亢進が確認された.病期別にみると病期の進行に伴つて増加しており,Stage III,IVはStage Iに比べ有意差があつた.またβ-TGは病状や治療効果を比較的よく反映し,術後5年生存率との間にも50ng/mlを境にして凝固動態の進んだもの程予後が不良であつた.そこでβ-TGを低下させれば予後の改善につながると考え,Warfarin,Ticlopidineを用いた抗凝固療法をStage III,IV 19名に行なつた.抗凝固剤投与によりStage III,IV のβ-TGは低下し,特にStage lVで低下の幅が大きかつた.遠隔成績の比較の目的で,同時期のStage III,IV 18名はこの療法を施行せず臨床経過のみを観察した.経過観察中,抗凝固療法施行群,非施行群間に遠隔転移,播種などを起こした率に差はなかつたが,施行群では治療開始から遠隔転移,播種が確認されるまでの月数が非施行群の観察開始よりの同期間に比べて延長しており,また遠隔転移,播種後の経過も施行群の方に長い傾向が得られた.従つて抗凝固療法は進行肺癌の病状安定化に寄与していると考えられた.抗凝固療法開始後30カ月目の生存率は施行群で74%,非施行群で64%となり,有意差はなかつたが全期間を通して施行群の生存率が上回つていた.これをStage IV 例のみでみると施行群64%,非施行群19%となり,有意差が認められた.

キーワード
術後肺癌患者, 擬固動態, β-Thromboglobulin, Warfarin, Ticlopidine


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