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日外会誌. 87(6): 626-635, 1986


原著

1, 2-Dimethylhydrazine 誘発ラット大腸腫瘍の経時的変化の内視鏡的観察と糞便の影響について

東京大学 医学部第1外科(指導:森岡恭彦教授)

斎藤 幸夫

(昭和60年9月26日受付)

I.内容要旨
1,2-Dimethylhydrazine(DMH)より誘発されたラット大腸腫瘍を経時的に内視鏡観察し,組織学的所見と比較検討することにより,本実験腫瘍の特徴のいくつかが明らかになつた.内視鏡的には個々の腫瘍の増殖速度に差があることが観察された.また腫瘍の発現確認時期とその腫瘍の屠殺時の深達度には明確な関連は認められなかつた.腫瘍発現早期の生検組織像はすべて癌と考えられる異型度を示し,生検後の腫瘍の増殖態度の差は説明できなかつた.増殖態度の異なるこれらの腫瘍は全体として時間に比例して発現していた.
さらに,このような特徴を持つ本腫瘍の発育過程における糞便の役割の一端を内視鏡観察と糞便の遮断実験の組み合わせにより検討し,糞便が本実験腫瘍に対してプロモーターとしてはたらく時期についての知見を得た.すなわち,平坦粘膜内にみられる異型腺管巣が,肉眼的に認められる大きさの腫瘍に発育するためには,糞便の存在が必要であるが,いつたん内視鏡で認められる大きさに増殖した腫瘍は糞便とは無関係に発育することが観察された.また,平坦粘膜内の異型腺管巣の出現には,DMH投与期間中のみの糞便の存在で十分であつた.
以上の成績から,本実験大腸腫瘍の発生過程は,イニシエーション,プロモーションの2つの異なるプロセスによる説明が可能であり,ヒト大腸癌の発生過程を考える上できわめて有用なモデルであると考えられた.

キーワード
1,2-Dimethylhydrazine (DMH), 実験大腸腫瘍, 経時的内視鏡観察, 平坦粘膜内異型腺管巣


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