[書誌情報] [全文PDF] (6725KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 87(4): 408-417, 1986


原著

異所性肝移植に関する実験的研究
-特に門脈 IVH 化による異所性同種肝移植について-

長崎大学 医学部外科学第2教室(教室主任:土屋涼一教授)

寺田 正純

(昭和60年7月9日受付)

I.内容要旨
肝障害時のtemporary hepatic supportを目的とした簡便で効果的な肝移植法として,移植肝の門脈を,インスリンを含む高カロリー輸液にて維持(門脈IVH化)し,動静脈のみの再建による異所性肝移植手技を考案し,胆管結紮犬においてその機能を検討した.
まず,門脈下大静脈側々吻合によるEck瘻犬を作製し,門脈IVH化による肝萎縮抑制効果を検討した.術後7日目の検索で肝萎縮率は,Eck瘻単独群で40.5±9.6(%)に対し,IVH付加群では6.7± 20.0(%)であり有意差を認めた(p<0.01).ICG 0.5mg/kg負荷によるR15及びKICG0.5の値は,Eck 瘻単独群でR15の有意の上昇とKICG0.5の有意の低下(p<0.05)を認めたが,IVH付加群では両者とも術前後の有意の変化を認めず,門脈IVH化により形態的機能的に肝の萎縮が防止された.
次に,胆管結紮犬において,門脈IVH化による異所性同種肝移植を行つた.移植肝は良好に機能し,無処置群では胆汁分泌は3~4日目をピークに6日間認めた.免疫抑制剤投与群では移植直後より良好な胆汁分泌を認め,5日目に著明に減少したがその後ふたたび増量し,観察期間中,胆汁排泄を続けた.血清総ビリルビン値はcontrol群(胆摘,胆管結紮群)では術直後より急激に上昇し,5~7日で10mg/dl前後に達したが,移植群ではより軽度の上昇か,あるいは全く黄疸を認めなかつた.剖検時あるいは犠牲死時に移植肝を摘出してその重量を測定した結果,移植時と比較し萎縮を呈した例はなかつた.また組織学的にも肝はその構築をよく保持していた.
門脈IVH化による異所性同種肝移植は,侵襲が少なく安全で,短時間で行える.また移植肝は充分な機能を発揮するため,障害された宿主肝の回復が期待できる可逆性の肝不全に対し,temporary hepatic supportとして用いるならば,本法は,肝障害に対する安全で,効果的な治療法の1つになりうると考える.

キーワード
Eck瘻, hepatotrophic factor, 経門脈的高カロリー輸液, 異所性同種肝移植

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。