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日外会誌. 87(2): 189-199, 1986


原著

メチルニトロソウレアによる早期発生ラット大腸癌の病理組織学的研究-特に組織発生について-

自治医科大学 病理学教室(指導:横山 武教授)

青沼 孝徳

(昭和60年4月5日受付)

I.内容要旨
ヒトおよび動物の大腸癌発生については,腺腫由来説とde novo carcinoma説がある.本研究では腫瘍の初期病変と癌の関係を追求し,大腸癌の組織発生を明らかにする目的で,ラットにN-methyl-N-nitrosourea(MNU)2mgを経肛門的に週3回,計15回投与し,その後の大腸腫瘍発生過程の組織を経時的に観察した.また,完全連続切片法を用い腫瘍の組織発生,特に腫瘍として形態学的に最も早期に発見される病変(発芽)およびその発育様式を検索すると共に,核DNA量の測定を行なつた.組織学的に病巣は以下の如く3種類に分類した.即ち,①肉眼的に確認できる主として浸潤癌から成る病巣.②肉眼的には確認できない顕微鏡的病巣で,複数の分枝した腺管から成る主として粘膜内に止まる異型病巣.③顕微鏡で確認される単一腺管のみから成る異型病巣.
MNUを用いた本実験系では,従来用いられた1, 2-dimethylhydrazineに比し,早期から多発性に粘膜内微小異型病巣と癌が共存して誘発された.また,粘膜内微小異型病巣と同一領域に粘膜筋板を貫く浸潤癌が引き続き発生した.粘膜内微小異型病巣の組織発生は,まず“発芽”という単一腺管から成る異型病巣に始まり,更にそれが進展して粘膜固有層に分枝した異型病巣になると推論された.既に“発芽”の段階で粘膜筋板に浸潤する異型病巣も認められた.一方,核DNA量ヒストグラムは粘膜内微小異型病巣と浸潤癌はほとんど同一パターンを示した.即ち,分散の幅が拡大し,2c,4cピーク以外にaneuploid分布が認められた.
以上の結果から本実験系におけるMNU誘発大腸病巣は腺腫をへて生じた癌ではなくde novo carcinomaと考えられる.

キーワード
N-methyl-N-nitrosourea, ラット大腸癌, 核 DNA 量


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