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日外会誌. 86(10): 1434-1443, 1985


原著

胃癌に対する根治的胃切除術後の急性無石胆嚢炎
-超音波診断法による検討-

東京大学 医学部第2外科(指導:出月康夫教授)

伊藤 徹

(昭和59年12月24日受付)

I.内容要旨
胃癌に対する胃切除術後に急性無石胆嚢炎がどの程度の頻度で起こるのかを明らかにする目的で, 術後発熱例に超音波検査を施行し検討した.
術前検査にて胆嚢病変がなく,リンパ節郭清を伴う胃切除術が施行された190例を対象に,術後に原因不明の発熱・腹痛の出現した40例に超音波検査を施行した.胆嚢部に一致する圧痛と急性胆嚢炎時に特有な超音波所見が得られた場合に,術後発熱の原因は胆嚢病変によると診断した結果,24例が術後急性無石胆嚢炎と診断された.超音波所見としては,胆嚢腫大は6例(25%)に,胆嚢壁の肥厚は19例(79%)に,胆嚢内腔のエコーは20例(83%)に,胆嚢壁あるいはその周囲の無エコー帯は14例 (58%)に描出されたが,臨床症状の重症度との間には,はっきりとした関連はなかった.18例は保存的治療のみで軽快し,6例に超音波ガイド下に経皮経肝胆嚢ドレナージを施行した.また,退院後の超音波検査にて6例では,術後3年以内に胆嚢内腔のエコーが次第に固型化し結石エコーへと変化した.
術後急性無石胆嚢炎の発症頻度は,190例中24例(12.6%)で,術式別にみると幽門側胃切除術では 131例中11例(8.4%),胃全摘術では48例中11例(23.0%),噴門側胃切除術では11例中2例(18.2%) に発症した.Appleby手術後では37例中10例(27.0%)と,とくに高い発症頻度であった.
一般に急性無石胆嚢炎の成因としては,胆嚢内胆汁うっ滞,胆嚢壁の血行障害,細菌感染などが考えられているが,胃癌に対する胃切除術後ではこれらの諸要素が複雑にからみあい,急性無石胆嚢炎がきわめて発症しやすい状況にあると考えられる.術後管理に際しては,常に本症の発症を念頭に置くべきである.

キーワード
急性無石胆嚢炎, 胃切除術後合併症, 超音波診断


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